見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六一

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「……な?お前も可愛い女房とガキを幸せにしてやりてぇだろ?こんな世の中じゃあ何があるか判ったもんじゃねえ。金はあった方がいい」

「……貴様ッ、家族に何かしてみろ。ただじゃおかんぞ」

「俺たちが何かするとでも?なあんにもしやしねぇよ。ただ、何があるか判らんから備えは必要だと言ってるだけさ」

 どこからともなく下卑た囁き声が聞こえる。
俺はエールをあおりながら、静かに店内を見回した。

 いた。
あれか。
店内の隅っこ。
壁際の一番目立たないテーブルに、男が四人掛けている。
一人は普通の男だ。
特に特徴らしい特徴もない。

 残りの三人は典型的な悪党面。
そいつらが、一人を取り囲むように身をのりだしている。
人を見た目で判断するなと言うが、見た目である程度判断できるのが現実だ。
見るからに悪人と言う面構え。
身なりも悪党らしい格好。

 悪党らしいとはなにか。
それはハッキリとは俺にも言えないが、なんとなく察してもらいたい。
つまり、雰囲気だ。

 笑うかも知れないが人には雰囲気と言うものが確実に存在する。
目付き、仕草、姿勢、歩き方、話し方、笑い方……そのどれもが個人の雰囲気を作り出している。
そしてそれはだいたい正しい。

 生まれつきの身体的な特徴以外で、本人が『人を見た目で判断するな』と言ったらまず疑っていい。
自分の責任ではない生まれつきの部分を『見た目で判断』してはならないのだ。

 俺の耳は離れた席の囁き声をハッキリと捉えていた。
たいして珍しくもない、恐喝の類いだ。
俺は残った肉にかじりつき、咀嚼しながら話の続きを聞いていた。
特に興味はない。

「お前の女房、いい女だもんなあ。ガキももう少しすればかなりの美人に育つのは目に見えている。いやあ、羨ましい限りよ。幸せモンだなあ」

 普通の男の表情が豹変する。
だが、両脇をガッチリと男たちに挟まれて怒鳴ることさえ出来ずにいる。

「女房もガキもきっと相当稼ぐぜ?羨ましい」

「貴様……ッ!」

「なあ、頼むよ。お前だけ出世するなんてズルいじゃねえか。俺たちにもよ、ほんのちょっぴり良い思いをさせてくれよ」

「……」

「手引きしてくれるだけで良いんだ。お前に一緒にやれとまでは言わねえよ。な?優しいだろ?」

 話の内容よりも、あの囁き声を全て聞き取れる自分の聴力に俺は驚いていた。
それにしても、どうしたものか。

 ここで目立って良いものか。
今から賢者様か大魔導士様を拐かそうと言うのに。

 俺は決断できない男だ。
それはこの数日で思い知った。
どうするべきか決められないまま、俺は立ち上がった。
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