162 / 826
一六二
しおりを挟む
どうしたもんか。どうしたもんか。
歩きだしても、まだどうするべきか決まらない。
面倒ごとはごめんだ。
かと言って、聞いてしまったものを聞かなかったことにするのは難しい。
なかなか無視して良いような悲劇の内容ではない。
コイツが痛い目を見るなら、それもアリかもしれないが、何の罪もない女性や子供が悪党の餌食になるのは忍びない。
亭主が不甲斐ないと家族が不幸になるパターンか。
そうは言っても悪党と言うのは向こうから絡んでくると相場が決まっている。
旦那ばかりが悪いとも言えないか。
さて、どうしたものか。
「……おい」
ドスの利いた下品な男の声がした。
俺は我にかえって声の主を見る。
「……てめえ、なんの真似だ」
気がつくと、いつの間にか俺は四人の間に割り込むように座っていた。
四人の顔を眺めながら考え事をしていたら、無意識に彼らの輪に入っていたらしい。
何やってるんだ俺。
この体になってから、なんだか少しおかしい。
精神的に無頓着になったと言うか、なんと言うか。
改造前と後では、怪人になった事に対する嫌悪感も無くなっていた。
「おい!誰だてめえはッ!」
リーダー格と思しき男が怒鳴った。
その瞬間、店中の視線がこのテーブルに向けられた。
喧嘩か、と誰かが言った。
好奇の視線と面倒ごとを嫌う視線が混じりあっている。
喧嘩は表でやってくれよ、と言う声も聞こえる。
喧嘩をするつもりはないんだが、どうすればこの場を収められるか。
この期に及んでまだ決められない。
もう既に傍観者ではないのに。
そうだ。
もう当事者だ。
だったらこの展開がどうなろうと俺の責任。
好きにやっても良い筈だ。
だったら流れに任せてみよう。
俺は何もしたくない。
第一、面倒くさくなくていい。
「おい!なに黙ってやがるッ!てめ……」
「エールお代わり。あとさっきの肉のヤツも」
俺はカウンターに向かってお代わりを催促した。
となりのむさいヒゲ面が何か言っているが、知らん。
正面の普通の男は口が開いてる。
閉じろよ。
馬鹿みたいだ。
「聞こえないのか!この野郎ッ!」
となりのヒゲ面が、やおら立ち上がった。
いや、立ち上がろうとしたが立てなかった。
俺がテーブルの上で、ヤツの左手首を押さえたから。
虫ピンで標本にされたかのように、男は手首をテーブルに押し付けられて立てない。
なるほど、なかなかの怪力ぶりだ。
これが改造人間の力か。
「は、離せッ!この馬鹿力!」
ヒゲ面が吠える。
しかし、なにもできやしない。
「てめえ!」
仲間の二人が見かねて立ち上がった。
三人が相手か。
しかし、俺は驚くほど冷静だった。
一ミリも負ける気がしないのだ。
歩きだしても、まだどうするべきか決まらない。
面倒ごとはごめんだ。
かと言って、聞いてしまったものを聞かなかったことにするのは難しい。
なかなか無視して良いような悲劇の内容ではない。
コイツが痛い目を見るなら、それもアリかもしれないが、何の罪もない女性や子供が悪党の餌食になるのは忍びない。
亭主が不甲斐ないと家族が不幸になるパターンか。
そうは言っても悪党と言うのは向こうから絡んでくると相場が決まっている。
旦那ばかりが悪いとも言えないか。
さて、どうしたものか。
「……おい」
ドスの利いた下品な男の声がした。
俺は我にかえって声の主を見る。
「……てめえ、なんの真似だ」
気がつくと、いつの間にか俺は四人の間に割り込むように座っていた。
四人の顔を眺めながら考え事をしていたら、無意識に彼らの輪に入っていたらしい。
何やってるんだ俺。
この体になってから、なんだか少しおかしい。
精神的に無頓着になったと言うか、なんと言うか。
改造前と後では、怪人になった事に対する嫌悪感も無くなっていた。
「おい!誰だてめえはッ!」
リーダー格と思しき男が怒鳴った。
その瞬間、店中の視線がこのテーブルに向けられた。
喧嘩か、と誰かが言った。
好奇の視線と面倒ごとを嫌う視線が混じりあっている。
喧嘩は表でやってくれよ、と言う声も聞こえる。
喧嘩をするつもりはないんだが、どうすればこの場を収められるか。
この期に及んでまだ決められない。
もう既に傍観者ではないのに。
そうだ。
もう当事者だ。
だったらこの展開がどうなろうと俺の責任。
好きにやっても良い筈だ。
だったら流れに任せてみよう。
俺は何もしたくない。
第一、面倒くさくなくていい。
「おい!なに黙ってやがるッ!てめ……」
「エールお代わり。あとさっきの肉のヤツも」
俺はカウンターに向かってお代わりを催促した。
となりのむさいヒゲ面が何か言っているが、知らん。
正面の普通の男は口が開いてる。
閉じろよ。
馬鹿みたいだ。
「聞こえないのか!この野郎ッ!」
となりのヒゲ面が、やおら立ち上がった。
いや、立ち上がろうとしたが立てなかった。
俺がテーブルの上で、ヤツの左手首を押さえたから。
虫ピンで標本にされたかのように、男は手首をテーブルに押し付けられて立てない。
なるほど、なかなかの怪力ぶりだ。
これが改造人間の力か。
「は、離せッ!この馬鹿力!」
ヒゲ面が吠える。
しかし、なにもできやしない。
「てめえ!」
仲間の二人が見かねて立ち上がった。
三人が相手か。
しかし、俺は驚くほど冷静だった。
一ミリも負ける気がしないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる