見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六六

 そう言ってリーダー格もジョッキを持ち上げた。

 ギ……ギ……

 不穏な音が頭上から聞こえる。
ほんの些細な音。
普段なら絶対に聞こえない音。
その音が、こんなに大きく聞こえるとは。

 当然、今の俺の耳にはハッキリと聞こえる。
リーダー格はしきりに天井を気にした。
やはり聞こえているのだろう。

 俺は構わずエールを飲み干す。
次から次へとエールが運ばれてくる。
俺は料理も注文した。

 リーダー格が信じられないと言う顔で俺を凝視した。
俺はもともと気にもしていない。
何故ならこんなシャンデリア一つ落ちてきたところで今の俺には雨が降ってきたのと大差ないからだ。
そもそもゲームにすらなっていない。

 これは単純に、こいつらに恐怖を刷り込むためのデモンストレーションにすぎない。

 ギ……ギギ……

 不穏な音の間隔が短くなってきたように感じる。
盛り上がっていた野次馬どもも、次第に言葉少なになってきた。

 みんな遠巻きに距離を取り、今や俺たちのテーブル周りは誰も居ない。

 ギギギ……ギギ……ギ……

 音が連続的になってきた。
これはもう落ちる寸前だと誰でも判るレベルだ。

「お、俺はもう……ごめんだぜ」

 遂にリーダー格が弱音を吐いた。
ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。

「まあ、待てよ。ここからじゃないか」

 俺はリーダー格の手を掴まえ、無理やり座らせた。

「な……!ちょ、なにをする!離してくれ!」

 テーブル越しに手を掴まえ、その手をテーブルの上で押さえつける。

「こんなところで止めたら盛り上がらないだろ」

「冗談じゃない!お前、もう落ちるんだぞ?判ってんのか!?」

「判ってるから言ってるんだよ」

「おかしいぜお前!」

「落ちてこなきゃ、お前が死なないじゃないか」

「ッ!」

 俺がそう言うとリーダー格は絶句した。

「貴様、最初から俺を殺る気で……ッ!」

「俺は最初からそう言っているが?」

「止めろッ!離せッ!離してくれぇ!」

 リーダー格は半狂乱で泣きわめいた。
野次馬たちは笑う者あり、顔をしかめる者あり、ドン引きする者ありだった。

「誰かあっ!」

 リーダー格が叫んだ瞬間。

 ……ブツッ!

 小さな、それでいて不安な音がした。
それでもみんなの耳にはハッキリ聞こえたに違いない。

「ぎゃあああっ!」

 リーダー格は絶叫して白目をむいた。

 ガシャッ!

 俺は落下してきた巨大なシャンデリアを受け止めた。
この店に似つかわしくない巨大で豪華なシャンデリアだ。

「この店にはちょっと似合わないんじゃないか?」

 俺はウェイトレスに言った。

「……でもまあ、今日の記念にこれからもぶら下げておくよ」

 ウェイトレスに代わってカウンターから店主がそう返事をした。
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