見知らぬ世界で秘密結社

一七七

 さて。

 どこから手をつけようか。
片っ端からぶちのめすとして、リーダーには話を聞きたいところだ。
あの講釈垂れを残して全部やってしまうか。

 俺は一番近いヤツから相手にする事にした。

「レオ。俺の剣を使え」

 マズルが自分の剣を俺に投げようとしていた。

「それを俺にやったらお前はどうするつもりなんだ。心配ない、武器はそこら中にある」

 俺はアゴでネオジョルトを名乗る賊を指した。

「ほっほっほっ。言いおるのう」

 サルバスが愉快そうに笑った。
いい気なもんだ。
これが終わったらあんたを拐ってやる。

「かかれ！」

 リーダーが叫んだ。
リーダーと言っても中ボスか、下手したら小ボスだ。
俺は一斉に掛かってくる集団に歩いて近づく。

「死ねえっ！」

 良く聞くセリフを、良くいる悪党が叫びながら突っ込んでくる。
だがなんの事はない。
相手が武器を振る前にパンチを叩き込む。

 ドガッ！

 男は数メートルは吹き飛んだ。
なんてイージーなんだ。
改めて自分の人間離れした力を認識する。

 冒険者として、戦闘は日常茶飯事だし、その為の身のこなしもそれなりに心得はある。
しかし、これは力量差が圧倒的過ぎてそれ以前の問題だった。

 戦闘技能や体捌きなどとは全く関係がない。
常人離れした腕力と五感、それに無限のスタミナ。
後ろの敵も手に取るように判る。
見てから避けても間に合うスピード。
敵の攻撃は当たりはしない。
だが、当たっても擦りむきもしないだろう。

 ぶん！
ぶおん！
びゅっ！

 風切り音が耳元をかすめる。
剣が、矢が、斧が、次々に振り下ろされる。
しかし、全て止まって見える。

 そのうち辺りが急激に暗くなってきた。
いったいいつの間に。
厚い雨雲が辺りを覆い隠している。
完全に陽光を遮断し、夕暮れを思わせる程の暗さになりつつある。

 ぽつ、ぽつ。

 大きな雨粒が頬に当たり始める。
これは夕立か。
段々とその間隔は狭まってくる。
雨足が早い。

 あっと言う間もなく、すぐにどしゃ降りになった。

「なんだこの雨は！」

 マズルの声が雨音に消されて、遠くの方で小さく聞こえた。
薄暗さと雨のカーテンに遮られ、視界は最悪だった。
耳を打つ激しい雨音が、聴覚も遮る。

 カカッ！

 遂に稲妻までもが走り始める。
こんな事は滅多にないが、まるで嵐のようだ。

 ザアアアーッ！

 激しい雨が俺を打った。
それでも俺の感覚は的確に相手を捉えていた。
この状況は、俺には全く不利になっていない。
むしろ雨が心地よい。
やはり俺がクラゲだからなのか。

 気がつけば、辺りには野盗の群れが累々と横たわっている。
もう何人倒したのかも判らなかった。
何しろ一人一撃で終わってしまうのだから。