見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一八三

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「ふん……すばしっこくなったじゃないか」

 ヴァンパイアが爪に着いた俺の血を舐めながら言った。

「……うん?なんだこの味は……?」

 ヴァンパイアが俺の血を舐めてから首を捻った。
俺の血の味がどうかしたのか。
だが、そんな事を言っている場合ではない。
早くしないと、またオオムカデンダルにどやされる。

 と言うか、別に来てくれたって構わんのだが。

 俺は了解を得たので変身する事にした。
俺自身、まだ変身しての戦闘は未体験だ。
そのせいか、ちょっと興奮していた。

「このどしゃ降りの中で良くやる。君はいったい何者なんだ?」

 ヴァンパイアが俺に質問した。
その質問は、以前戦った時もしていた。
俺の事情は多少変わっているかもしれないが。

「どしゃ降りはお互い様だろ」

「ふふふ……ははは。この雨はね、僕が降らせたんだ」

 なんだと。

「そうでもなければ、こんな日向に出てこれないからね。だって僕はヴァンパイアなんだよ?」

 言われてみれば確かにその通りだ。
なぜその事に思い至らなかったのか。

「君たち人間の視界も聴覚も制限できるし、足下もおぼつかないだろ?」

 なるほど、魔王のクセに用意周到だな。
魔王だから用意周到なのか。
とにかく、早く変身しなければ。

 俺は構えを解くと、その場で一回転した。

 ばっ!

 勢い良くターンして、ヴァンパイアに向かう。

「……なんだそれは」

 ヴァンパイアが低い声で言った。

 本当になんなんだこれは。
変身していない。

 なぜだ。
変わっていないじゃないか。

「蜻蛉洲っ!蜻蛉洲っ!」

 俺は大声で蜻蛉洲の名前を呼んだ。

『……なんだ』

 冷たい声で蜻蛉洲が答えた。

「変身しないぞ。変われない」

 蜻蛉洲はいつも以上に冷たく答えた。

『観ていたよ。集中が出来てない。もっと変わるんだとしっかり意識したまえ』

「していたつもりだが、雨のせいなのか……」

 俺は首を捻った。
激しい雨音、体を打つ大きな雨粒。
集中出来ていないと言われても、自分ではよく判らなかった。

『……では、『変身』とでも掛け声を掛けたまえ。声に出すことで多少は強く意識できるだろう』

 蜻蛉洲は少し呆れたようにそうアドバイスした。

 声に出すか。
やってみよう。

 俺はもう一度真っ直ぐ立つと、なるべく集中してヴァンパイアを見た。

「さっきからどうした……?」

 ヴァンパイアがさすがに訝しんだ。
さっきから俺は、怪しい行動ばかりしている。

「……なんでもない。いくぞ」

 そうしてから俺は気持ちを込めて叫んだ。

「変身!」

 ばっ!

 今度こそ。
俺は集中してその場で一回転した。
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