見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一八九

 雨が降っているだけに、体感温度の低下は凄まじかった。
真夏から真冬などと言う生易しい表現では到底言い表せない。
本当に極寒だった。

 さすがは賢者サルバス。
これが伝説のドラゴンクラスか。

「うあああ……さ、寒い……!」

 マズルが声にならない声をあげた。
すまんな。

「これ、ワシにくっついておれ。凍死するぞ」

 サルバスがマズルに言った。
サルバスの周囲だけは暖かいらしい。
当然か。

 辺りの気温は益々下がった。
それも急激な速さでだ。
自然界では到底起こり得ない。

「これでいいか?この辺りは下げられるだけ下げたぞ」

 カッカッカッカッと笑いながらサルバスが言った。
普通に考えれば、一警備隊隊員の頼みで賢者が言うことを聞いてくれるなどと言うことは考えられない。
だが、サルバスは面白がって頼みを聞き入れた。
何を考えているのか判らない人物だ。

 雨はすぐに小さなあられになった。
じきに雪に変わるかもしれない。
真冬でもここまで気温は下がらない。
誰も体験したことのない寒さだ。

 俺の考えが正しければ、そろそろ何か起きるはずだ。

「む……」

 ヴァンパイアの声だ。
始まったか。

「こ、これは……」

 ヴァンパイアの声に焦りがうかがえる。

 辺りに立ち込める霧。
これこそがヴァンパイアの姿だ。
それが今、段々と消えつつあった。

「霧が……」

 マズルが異変に気付いた。
サルバスも興味深く霧を観察している。

 やがて霧は溶けるように消えて、地面に片膝をついたヴァンパイアの姿が現れた。

「どうなっている……!」

 ヴァンパイアが俺を見上げて睨み付けた。

「簡単に言えば霧は小さな水滴だと言うことだ。急激に冷やして氷にしたら、空中に浮いてはいられない。寒冷地では息が凍って地面に落ちるそうだ」

 俺も初めて知ったが、これが管理人が俺に与えた知識の一端だ。
だがオオムカデンダルたちにとっては常識で、何も驚くべき事ではないらしい。

「ほお……」

 サルバスが感心したように声を漏らす。

「もう逃げられんぞ」

 俺はヴァンパイアに宣告した。

「人間風情が……なめるなよ!」

 ヴァンパイアが歯軋りして立ち上がる。

「ケェェェーッ!」

 奇声を発してヴァンパイアが襲い掛かる。
だが、すべて見えている。
俺はヴァンパイアの攻撃をかわすこと無くすべて受け止めた。

 自分で言うのも気恥ずかしいが、もはや格が違っていた。
魔王ヴァンパイアは既に、俺の敵ではないのだ。

 ドカッ!

 ヴァンパイアの腹に、俺はたった一発打ち返した。

「ググググ……ッ!」

 たまらずヴァンパイアが後退する。

「お前は生きているべきではない。闇に帰れ」

  止めを刺すべく俺は必殺の構えをとった。
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