見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二五五

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 中に入ると店内は花で一杯だった。
店自体は質素な造りだが、花があると言うだけで
どんなインテリアも敵わない。
とても華やかだ。

 見ると、ポツンと人が立っている。
女性か?
長い金髪。
真っ白な磁器のような肌。
儚いほど細い体躯。
俺は、花畑の中に立つ少女のように思えた。

 俺はカルタスの顔を見た。

「……アンタの助けが必要だ」

 カルタスが頭を掻きながら言う。
どう言うことだ。
俺はもう一度女を見た。
小さく肩が震えている。

 俺は回り込むように正面へ移動した。
顔を覗きこむ。

 泣いている?
女は両手で顔を覆って、しくしくとすすり泣いていた。
俺はもう一度カルタスの顔を見る。
カルタスは軽く首をすくめた。

「なんだこれは?」

 俺はカルタスに近付いて小声で尋ねた。

「俺にも判らん」

 なんだと。
まさか、お前が泣かした後始末を俺にさせようと言うのか。

「違う違う。店に来るなり泣き出して俺も困ってるんだ」

 本当か?
信じない訳でも無いが、この顔を見ると何かしでかしたんじゃないかと思えてくる。
人間、見た目は大事だな。

「兵隊呼ぶわけにもいかんし、こういうのを助けてくれそうな知り合いはオレコくらいだからな。出掛けちまったから仕方ねえや、アンタ頼むよ」

 よせ、やめろ。
俺も泣いてる女はどうして良いか判らん。

 だが、カルタスは俺の背中をグイグイ押して女の前へと送り出した。
なんて馬鹿力だ。

 仕方なく俺は女に語りかけた。

「あの、君はどうして泣いてるんだ?」

 しかし彼女は少しも顔を上げようとしない。
まさか、答えてさえくれないとは。
相当に辛いことがあったのかもしれないが、なにも人の店の中で泣かなくても良いだろう。
そこが、そもそもおかしいのだ。

 泣きに来たんじゃないのか。
そんな気さえしてくる。
俺はカルタスに言った。

「泣かせておけば?」

 カルタスの顔がひきつる。

「冗談だろおい」

「良いじゃないか。暴れてるわけでも無いし、泥棒って訳でもなさそうだし。気が済んだら帰るだろう」

 俺は背後の彼女を親指で指した。

「無責任なことを言うなよ」

 カルタスが小声で怒鳴る。
いや、俺にいったい何の責任があると言うのだ。
無責任で当然だろ。

「暴れる泥棒の方がマシだ。ぶん殴って放り出せば良いんだからな」

 それは……どうなのか。

「あの……せめて何か話してくれないか?店の店主も困ってる」

 俺は彼女にもう一度話しかけた。
彼女はそこで初めて、ゆっくりと顔を上げた。
手のひらの隙間から、ちらりとこちらを見る。
そして、カルタスを見た。

 しくしく……

 だがすぐに顔を覆って泣き出した。
もう、何なんだよ。

「その人が……私を……」

 彼女は消えそうな声で言いながら、震える指先でカルタスを指差した。
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