見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二五七

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「何日も日照りが続いて、川も干上がり、みんな飢えていたんです」

 なるほど良くある……かは判らないが、まあ、ありそうな話だ。

「そんな時にこの方がバイラヌを訪れて私に食べ物を下さったんです」

 ふむ。
良い話じゃないか。
どこかに恨みを買う要素があっただろうか。

「この方は去り際にこう言われました。『また来る』と。『それまでにもっと綺麗になっておくんだぞ』とも」

 この殺人犯みたいな顔でか?
そんな気の利いた事も言えるのか。
人は見かけによらないな。

「待て、確かにバイラヌを訪れた事はある。だが俺は誰にもそんな事を言った覚えはないぞ!その頃アンタはたぶん少女だろう?そんな少女にも会った覚えは無い!」

 カルタスが反論した。
トラゴスと名乗った女は、またすすり泣く。
これ、俺は関係ないじゃないか。
カルタスが当事者と言うことは判ったのだ。
帰らせてもらおう。

「そうか。ま、後は当事者同士、記憶を擦り合わせるんだな」

 俺はそう言ってカルタスの肩をポンと叩いた。
そのまま横をすり抜けて出口へ向かう。

「待て」

 カルタスが逆に俺の肩をポンと叩いた。

「逃げるなよ」

「逃げる?そもそも俺は関係あるまい」

「乗り掛かった船だろ?最後まで見届けて行けよ」

「乗り掛かったんじゃない。無理やり乗せられたんだ」

 ポン、パシッ、ポン、パシッ、ポン、パシッ、ポン、パシッ

 俺とカルタスは肩に乗せられた相手の手を、互いに素早く振り払いあった。

「私、ずっと待っていたのに……綺麗になって待っていたのに……」

 彼女が恨みがましい目でこちらを見た。
カルタスが固まった。
なぜ俺まで睨むのか。

「……あ、いや。それは済まなかった。だけどよ、俺は本当に覚えがないんだ。記憶には自信がある。忘れたって事はねえよ。例え忘れていたとしても、もし真実ならアンタの話を聞いた時点で絶対に思い出している。やっぱりアンタには会った事はない」

 カルタスがハッキリと言い切った。
ごまかしを言っているようには見えない。
そんな男でもないだろう。
ここまで言うなら、本当にそんな事は無かったのではないか。

 だが、一方でトラゴスの態度はどうか。
こちらも嘘を吐いているようには見えない。
だが、女の嘘を見破れるほど『女』を知っているのかと言われれば、無いと答えるしかなかった。

 いったい、どうなってるんだ。
俺はトラゴスの顔をじっと見た。
顔を覆っていたから気付かなかったが、かなりの美人だ。
カルタスが、こんな女を袖にするとはちょっと思えない。
どこかの貴族辺りに見初められても、少しもおかしくないレベルだ。

 ん?

 俺は何かを見つけた。
彼女の頭。
髪に隠れて見えにくいが、角のような物がある。
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