見知らぬ世界で秘密結社

二七七

「まあ、あれだ。隠居暮らしも飽きてきた頃だし、ソル皇子の頼みでもあるし」

 カルタスが笑いながら言う。

「上手く行けば、ソル皇子と帝国の救世主として箔も付く」

 この男はどこまで本気なのか。

「レオ」

 突然オオムカデンダルの声がした。

「良いじゃないか。本人たちが付いてきたいと言っているんだ。連れていけ」

 まただ。
なぜオオムカデンダルは彼らを連れて行かせたいのか。

「良いから言う通りにしろ」

「……一つ聞きたいんだが」

 俺はオオムカデンダルに尋ねた。

「なんだ？」

「ひょっとして、退屈しのぎに面白がっているんじゃないのか？」

 オオムカデンダルは声を出して笑った。

「はっはっはっはっ。まあ、それは半分だ。あとの半分は別の目的だ。だから連れていけ」

 オオムカデンダルはそう言って一方的に通信を切った。
勝手に繋いで勝手に切るとか、自分勝手は相変わらずだが、俺にプライベートは無いのか。

 とにかく、仕方がない。
断る良いタイミングだったんだが、オオムカデンダルの指示には逆らえない。

「ねえ、誰と話してるの？」

 オレコが怪訝そうに俺を見る。

「オレコの店でもなんか言ってたよな？」

 カルタスも同意し出した。

「……別に。独り言だ」

 オレコとカルタスが顔を見合わせた。

「可哀想に……」

 誰が可哀想だ。

「時間が惜しい。行くぞ」

 俺は再び歩き出した。

「お、一緒に行く気になったか。よし！行こう！」

 カルタスが背中をバンバンと叩いてくる。
しかし。

 俺は後ろを付いてくるトラゴスをチラリと見た。
彼女はさすがに無理があるんじゃないだろうか。
人間ではないとは言え、元が山羊では戦力どころか巻き込まれたら死ぬのがオチだ。

「ご心配は無用です」

 トラゴスは俺の心中を察したように笑顔でそう言った。
本当に大丈夫なのか。

「それでどうやって潜入するんだ？」

 カルタスがオレコに尋ねた。

「こう言うのは根回しと人脈が有効なのよ」

 どう言う事だ。

「付いていらっしゃい」

 そう言って今度はオレコが先頭を歩き出した。

「おい、方向が違うぞ」

 俺は城とは反対に歩き出したオレコを捕まえた。

「あら、嫌だわ。まだ明るいのに大胆なんだから」

 オレコが頬に手を当てる。
お前は何を言っているんだ。
俺の言葉を聞いていたか？

「方向が違うと言ったんだ」

「わーかってるわよ、もう。良いのよこっちで」

 こっちは市街地に向かう方向だ。
訳が判らなかったがオレコが人差し指をチョイチョイと曲げて、付いてこいと手招きをした。

 仕方がない。
俺はオレコのあとを歩く。

「潜入してどこを目指すんだ？」

 カルタスが今さら尋ねた。

「ネオジョルト討伐軍の指揮官だ」

 俺は答えた。