見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
353 / 826

三五三

 俺は言われた通りに席に座った。
薄暗い店内を見渡すと、それぞれの席に男性客が居て、そこに女が付いている。
時折客と女が連れだって店を出ていくのも見える。
女が男性客を接待する酒場だ。
良くある店と言えば、良くある店だった。

 だが、こんな子供を従事させるのは良くある事ではない。
全くないとは言わないが、だいたいは悪質な店と言って良いだろう。
小間使ならまだしも、客を取らせるとは普通ではない。
だから看板を掛けられないのだ。

 しばらくするとさっきの女が小走りに戻ってきた。
手にグラスと酒の乗ったトレーを持っている。
明らかに嫌な予感がした。

「きゃっ!」

 案の定、俺の見ている前で女は盛大に蹴っつまずいた。

 バシャーンッ!

 俺はとっさに彼女を受け止めたが、トレーの方は床にぶちまけられた。
当然グラスは割れ、酒は飛び散っている。

「ちょっと!なにするのよ!」

 若い女の怒声が飛ぶ。
店の女が立ち上がる。

「おいおい、頼むぜ。靴までグショグショじゃねえか」

 男の声で愚痴が聞こえた。
これは客だ。

「またアンタなの!?ホント使えないわね!」

 女が彼女の頭を叩いた。

 ばしっ!

「いたい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 彼女が俺の腕に抱えられたまま、頭を押さえて謝った。

「もう良いだろ。わざとじゃ無いんだ。許してやれ」

 俺は女に言った。

「お客さん。この子はね、こんなの初めてじゃないんですよ!何べん言っても判りゃしないんだから。この愚図!」

 女がもう一度平手を振り上げた。

「やめておけと言っている」

 俺は女を睨み付けた。

「……ちっ!早く片付けなさい!」

 女は舌打ちすると席へと座った。

「おい兄ちゃん、俺の靴はどうしてくれるんだ?お前が代わりに新しい物を新調してくれるのかい?」

 収まったかと思ったら客の方が出てきた。

「……靴ぐらいすぐ乾くだろ。大の男がそのくらいで騒ぐな」

 俺は女を後ろにかばうと下から男を見上げた。
ただのスケベ親父かと思ったが、目付きや態度が堅気には見えない。
ゴロツキかチンピラか。
どちらにしても雑魚には違いない。

「ああ、そうかい。じゃあお前が乾かしてくれよ。綺麗に舌で舐めてよぉ」

 そう言うと男は下品に笑った。

「放っておけば乾く。大人しく座ってろ」

 俺の言葉に男の表情が変わる。

「兄ちゃん、口の聞き方に気を付けなよ?俺はただの気の良い親父じゃないんだぜ?」

「俺はアンタを気の良い親父だなんて思っていない。ただのスケベ親父だと思ったんだが違うのかい?」

 その瞬間、辺りはしんと静まり返った。
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

親世代ではなかったのですか?

立木
恋愛
親世代が「乙女ゲーム時代」だったと思っていたら、子世代も「乙女ゲーム」だった。 ※乙ゲー転生ですが要素は薄いです。 ※別サイトにも投稿。 ※短編を纏めました。

居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女── その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。 病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。 白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。 自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、 父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。 ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。 皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、 側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。 その直後、父が危篤に。 泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。 「どうして平民の私に魔力が……?」 やがて明かされる真実── ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。 王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。 不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、 幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。 「今度こそ、君を見失わない」 歌姫王女として成長していくミリアと、 彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。