見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三五九

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 バッケスは何も言わず、じっと俺の顔を見た。
俺も無言でバッケスを見返す。

「……ふふ、怖い怖い。判りました。あなたの言う通りにしましょう」

「約束だからな。違えたら責任は必ず取らせる」

 俺はバッケスに念を押した。

「判っています。私だって敵にして良い相手かどうかくらい理解していますよ」

 バッケスはそう言うと、ごゆっくり、と言い残してその場を去った。

「お前もだ。今後彼女に辛く当たるな」

 俺は正面に座った女にも念を押した。
女は俺を睨み付けるとそのまま立ち上がり、バッケスと同じくその場を立ち去った。
やれやれ。
ひとまずこれで安心できるか。
俺は少女を見た。

「そう言えばまだ名前を聞いていなかったな」

「あ、そうですよね!あたしキロって言います!」

 キロはそう言うと、照れ臭そうにはにかんだ。

「キロ。もし何かあったら俺に言え」

「レオ様に?」

「そうだ」

 キロはやや困惑したような素振りを見せた。

「どうした?」

「いえ。ただレオ様のお家も知らないのでどうやったらお会いできるのかと」

 確かにそうだ。
だが心配には及ばない。

「そうだな。もし俺がこの街に居れば、どこで呼んでも聞こえる。そうしたら必ず駆けつけよう。しばらくは居ることになるだろうから、心配するな」

 キロは目をパチパチと瞬いた。

「この街のどこからでもですか?」

「そうだ」

 さすがににわかには信じられないだろうが、信じてもらうしかない。

「……判りました。ありがとうございます」

 キロはそう言って頭を下げた。

 ゴチン

 下げた頭がテーブルにぶつかる。
ほんとかよ。
そんなの初めて見たぞ。

「えへへ……」

 キロは照れ笑いでごまかして頭を掻いた。
額が赤くなっている。
ここまでのおっちょこちょいは、そうは居まい。
ある意味貴重だろう。
俺はなんだか心配になってきた。

「キロは弟が居るのか?」

「はい!弟が二人居ます」

 二人も幼い弟を養っているのか。
こんな小さな体で、大人の相手をしていたのか。
どんな辛さだったか、とても想像の及ぶところではなかった。
この国は、いや、世界そのものが残酷だ。
世の中と言う物はそういう物だと言われれば、そうなのかもしれない。

 だが、やはり理不尽だと思わずには居られなかった。
オオムカデンダルも、カルタスに対して言っていた。
こんな世界で幸せだと、お前は本当に思っているのかと。

 ナイーダも、謂れのない事で散々苦労していた。
彼女もまた、大人ではない。

 女や子供が割りを食う。
誰のせいかは判らんが、俺は無性にやるせなかった。

「お前らちゃんと飯食ってるか?あとで食わせてやるから弟たちも呼んでくるが良い」

 俺はそう言って残りの酒を飲み干した。
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