見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三六三

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 金持ちや高い地位にある者ほど、裏では何をしているか判った物ではない。
こんな店に世を忍んで通う事を見ても、普段は変態趣味を隠している事が伺える。

「わあ!美味しそう!」

「たくさん食べてもいいの?」

 弟たちが口々に尋ねた。

「もちろんよ!お腹いっぱい食べなさい」

 キロが笑顔でそう言った。

「いっただっきまーす!」

 ナノとピコはそう言ったかと思うと、猛然と料理を食べ始めた。

「にぃに。美味しいね!」

「うん。美味しいな!」

塩漬けにした肉と野菜をパンに挟んだもの、野菜と羊肉を使った煮込み料理、ポテトを潰して油で揚げたもの、皿一杯のスクランブルエッグ、羊の腸に塩と血を詰めて薫製にしたもの、他にも様々な料理が並んだ。

 俺でさえ普段口にしないような豪華な料理だ。
こんなに食べきれるのか?
まあ、気持ちが満足するならそれで構わないが。
周りの席の客たちも気になるのか、次第に身を乗り出してこちらのテーブルを覗き見た。

「ほお。豪勢だな。どこの御大尽だい?」

 一人の男がテーブルの横に立って、並んだ料理を見ている。

「別に、ただの冒険者さ。いつも腹を減らしていると聞いてな、たまには腹一杯に旨いものを食わせてやりたいってだけだ」

 男は小さな声で、へぇと言った。

「アンタの子って訳じゃ無いんだな。アンタずいぶんと優しいんだな」

「よせよ。ただの気まぐれだ」

「ところでアンタ、レオって名前かい?」

 俺はそこで男を見上げた。

「そうだが、お前は誰なんだ?」

「俺はファズって言うんだが……聞いたこと無いか?」

「有名人なのか?済まんな、俺は世俗には疎くてな」

 男はため息混じりに笑った。

「いや、冒険者ならそんなもんかもな。自分で言うのもなんだが、これでも少しは有名人なんだぜ?」

 パッと見、確かに一般人らしくは無い。
なんと言うか垢抜けているように見える。
野暮ったさが無かった。

「なんだ。歌手か芝居役者か?一介の冒険者に声をかけるなんて、どう言う風の吹きまわしだ?」

「ははっ!残念だがどっちも外れだ」

 俺はもう一度男を見た。
爪先から頭のてっぺんまで見たが、何者なのかサッパリ見当も付かなかった。
ふと見ると、キロはうつ向いている。

「なんだ?どうした」

 俺はキロに尋ねた。
具合でも悪くなったのか?

「俺はね、この辺りで顔のスラッグの片腕なんだよ」

 スラッグ。
確かマイヤードがその名を口にしていたな。
なるほど、そいつの懐刀って訳か。

「そいつが俺に何の用だ?」

「はっ!スラッグの名を聞いても無反応とは、アンタ本当に世俗に疎いんだな」

「言ったろ?俺はただの冒険者だ。帝国の市民では無い。有名人の知り合いも居ないし、必要もない」
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