見知らぬ世界で秘密結社

四九九

 まさか夕飯時を狙ってくるとは。
どこの家でも家族が集まっている。
家族揃って一家団らんを過ごしている時だ。
完全に無防備である。

 俺は路地から転がるように表へと飛び出した。
城門めがけて全力で走る。

「こっちは準備できてるわ。いつでも頂戴！」

 オレコの声が聞こえる。

「俺はあえて目の前で変身して見せる。少しは威嚇になるだろう。そうしたら隊の中頃を狙って攻撃を仕掛けてくれ」

「わかってらあ！」

 威勢の良いカルタスの返事が聞こえた。
それと同時に、跳ね橋が降りきった。
中から歩兵が隊を成して現れる。
先頭は隊長とおぼしき兵士だ。

「バーデンでは無いか」

 俺は舌打ちしながら隊の先頭に立ちはだかった。

「き、貴様はっ！」

 兵士たちが俺を見てどよめく。
そうか、俺を見たヤツか。
昨日も来ていたヤツらだな。

 隊が一瞬止まった所で、俺はくるりと一回転する。
姿はすぐにサフィリナックスに変わった。

「出たぞ！怪人だ！」

 兵士たちが口々に大声で叫ぶ。
後続に知らせているのだ。

「今だ！やれ！」

 俺は叫んだ。

 ひょおっ！

 風切り音が聞こえて矢が飛んだ。
俺の左後方から頭上を越えて、注文通り隊の中頃に矢が飛ぶ。

 ドォンッ！

 ほぼ同時に今度は右後方から砲撃の音が轟く。
そして、それも同じく隊の中頃に炸裂した。

「うおあっ！」

「うわあああっ！」

 叫び声をあげて兵士たちが吹き飛ぶ。

 ひゅん！ひゅん！ひゅん！

 矢が連続で兵士を射抜く。
あの弓をここまで連射するのか。
俺はオレコの技量に舌を巻いた。
この距離でこの命中精度と威力。
プレートを着込んだ兵士の胸に、深く矢が突き刺さっている。
中まで届いているのだ。
あの弓の大きさが、この威力を生み出しているのか。

 狙い通り、隊は大混乱に陥った。
前進どころではない。

「おおっ！」

 俺は二人に負けじと単身突っ込む。
先頭の兵士を二人同時にぶん殴る。
右に左にジグザグと移動しながら、手当たり次第に殴り付けた。

「スクリューシェイブクロウ！」

 俺の手首が高速で回転する。
猛禽類の爪のように五指を立てると、そのまま回転する手でフルプレートアーマーをえぐった。

「ぎゃあああ！」

 兵士の断末魔が聞こえる。
だが、躊躇はしない。
コイツらは民間人相手にも手加減しないのだ。
殺らなければ被害は甚大だ。

 俺は猛り狂った虎の如く、スクリューシェイブクロウでアーマーごと兵士を貫いた。

「ひ、退け！退けぇ！」

 誰かが叫んだ。
兵士たちは我先にと退却を始める。
城門の中へと戻る兵士たちを、オレコとカルタスが情け容赦無く追撃した。

 ドォンッ！ドォンッ！

 ひょおっ！ひゅん！ひゅん！ひゅん！

「うわあああっ！」

「ぎゃあああ！」

 一瞬で城門前は地獄絵図と化した。