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五〇七
「……おのれ!」
バーデンは怒りの表情を見せたが、言葉は意外にも少なかった。
大人しかったと言っても良い。
その怒りの表情も、段々と影を潜めていった。
「今のを見れば、貴様が雑魚では無い事は判る。ならば、こっちも本気を出さなければな」
バーデンは努めて冷静に言った。
熱くなりすぎない。
客観的に状況を見ている。
オオムカデンダルから見てただのボンボンでも、腐っても勇者であり帝国将軍なのだ。
オオムカデンダルは黙ってバーデンを見ていた。
特に動きは無い。
「念には念を入れる」
バーデンはそう言うとマントをはだけた。
「フィアー」
バーデンがそう言うと、全身から黒い霧のような物が辺りに広がる。
あれは、恐怖だ。
黒い霧に巻かれると、その人間の心を恐怖が支配する。
人間誰しも恐怖心を持っている。
心のない人間など居ない。
その人間の心の中を、恐怖心が満たしていくのだ。
どれほど屈強な戦士であろうとも、心を攻められては普通では居られない。
ましてやバーデンのこの能力に掛かれば、立っている事さえ難しい。
ただただ恐ろしくて、訳も判らないまま、押し潰されそうな恐怖心に這いつくばるしかないのだ。
「うわあっ!に、逃げろ!」
兵士たちは当然知っているであろう。
霧から逃れるべく、我先にと逃げ出した。
逃げられなかった兵士たちは知らなかった兵士だ。
逃げ遅れてその場にしゃがみこむ。
「うわあああ!」
「あああっ!あああ!」
それぞれに頭を抱え、またある者は自らを抱き締め、その場にうずくまる。
俺のところにも霧は届いた。
だが、俺はもう動くことさえ出来ないのだ。
たちまち恐怖心が俺を包み込んだが、首を持ち上げる事さえ出来ない俺は、そのまま成り行きを見守る事しか出来なかった。
「くくくく……!どんな屈強な戦士でも関係無い。心を擦り潰してやる!」
バーデンが力を込めて言い放つ。
その両目は妖しい光を放っているように見える。
なんなんだ、この力は。
とても勇者の使う力とは思えない。
「ほお。興味深い宴会芸だ。だが使い道はあるのか。ああ、なるほど。泥棒を働いたり女を襲ったりする時に使うんだな?実力の無い奴が欲しがりそうな力ではあるな」
「なんだと!」
バーデンが激昂する。
だが、オオムカデンダルは先程からまったく姿勢を変えていない。
相変わらずポケットに両手を突っ込んだままの姿勢で平然と立っていた。
オオムカデンダルにもバーデンの恐怖の霧は届いている。
なのに何故平気でいられるのか。
「……信じられんな。驚くほど強がりだ。だが、体は鍛えられても心は鍛えられん!」
バーデンの両目がより一層、赤黒く光を増した。
バーデンは怒りの表情を見せたが、言葉は意外にも少なかった。
大人しかったと言っても良い。
その怒りの表情も、段々と影を潜めていった。
「今のを見れば、貴様が雑魚では無い事は判る。ならば、こっちも本気を出さなければな」
バーデンは努めて冷静に言った。
熱くなりすぎない。
客観的に状況を見ている。
オオムカデンダルから見てただのボンボンでも、腐っても勇者であり帝国将軍なのだ。
オオムカデンダルは黙ってバーデンを見ていた。
特に動きは無い。
「念には念を入れる」
バーデンはそう言うとマントをはだけた。
「フィアー」
バーデンがそう言うと、全身から黒い霧のような物が辺りに広がる。
あれは、恐怖だ。
黒い霧に巻かれると、その人間の心を恐怖が支配する。
人間誰しも恐怖心を持っている。
心のない人間など居ない。
その人間の心の中を、恐怖心が満たしていくのだ。
どれほど屈強な戦士であろうとも、心を攻められては普通では居られない。
ましてやバーデンのこの能力に掛かれば、立っている事さえ難しい。
ただただ恐ろしくて、訳も判らないまま、押し潰されそうな恐怖心に這いつくばるしかないのだ。
「うわあっ!に、逃げろ!」
兵士たちは当然知っているであろう。
霧から逃れるべく、我先にと逃げ出した。
逃げられなかった兵士たちは知らなかった兵士だ。
逃げ遅れてその場にしゃがみこむ。
「うわあああ!」
「あああっ!あああ!」
それぞれに頭を抱え、またある者は自らを抱き締め、その場にうずくまる。
俺のところにも霧は届いた。
だが、俺はもう動くことさえ出来ないのだ。
たちまち恐怖心が俺を包み込んだが、首を持ち上げる事さえ出来ない俺は、そのまま成り行きを見守る事しか出来なかった。
「くくくく……!どんな屈強な戦士でも関係無い。心を擦り潰してやる!」
バーデンが力を込めて言い放つ。
その両目は妖しい光を放っているように見える。
なんなんだ、この力は。
とても勇者の使う力とは思えない。
「ほお。興味深い宴会芸だ。だが使い道はあるのか。ああ、なるほど。泥棒を働いたり女を襲ったりする時に使うんだな?実力の無い奴が欲しがりそうな力ではあるな」
「なんだと!」
バーデンが激昂する。
だが、オオムカデンダルは先程からまったく姿勢を変えていない。
相変わらずポケットに両手を突っ込んだままの姿勢で平然と立っていた。
オオムカデンダルにもバーデンの恐怖の霧は届いている。
なのに何故平気でいられるのか。
「……信じられんな。驚くほど強がりだ。だが、体は鍛えられても心は鍛えられん!」
バーデンの両目がより一層、赤黒く光を増した。
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