見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五七〇

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 好奇心が旺盛なのはともかく、帝国の一部を切り取られたと言うのにソル皇子は、興味深げに街の中を見回していた。
俺たちはアンタの領土を奪ったんだぞ。
いったいどう言う神経をしているのか。

「ふふふ。まあ、父上や兄上は笑ってはおれぬだろうが、余は第二皇子であるからして。皇位継承に関係の無い立場で楽しんでおるよ」

 気まますぎるだろ。

「それにの、余は別に良いとも思うておる」

 どう言う事だ。

「民草が幸せに暮らしておるのならば誠に結構な事よの。面倒見切れないほど領土や民を抱えておっても、それで民衆が飼い殺しのような目に合うのならば、いっその事手放してやった方が民衆にとっても良かろうとも思う」

 ソル皇子はこちらも見ずに、街を行き交う人々を見つめながらそう言った。
その目は気のせいか優しげに思える。
彼は彼で、色々と思うところがあるのだろう。
結局、皇族の考える事は皇族にしか判らないと言う事か。

「ところで」

 ソル皇子が唐突に俺を見た。

「まだお前たちにのアジトに、余は招待してはもらえんのかの」

 は?

 ちょっと待て。
突然何を言い出してくれていらっしゃるのか。

「いや、もう知らぬ仲でもあるまい?そろそろ招待してくれても良かろう?」

 いやいやいやいや。
その理屈はおかしいぞ。
俺たちは秘密結社だ。
しかも世界征服を企んでいる。
世の中的には、たぶん悪者だ。
何故に帝国の皇子を、そのアジトに招かなければならんのだ。

 銀猫も開いた口が塞がっていない。
早く閉じろよ、みっともない。

「いやその、殿下。失礼ながら、ご自分が何をおっしゃっておられるのか、判っておいででは無いのでは……」

「何故だ?判っておるぞ。馬鹿にするでない」

 ソル皇子は憤慨した。
そうなのか?
ただの皇族の気まぐれではないのか。
いわゆる『おたわむれ』なのではないのか。

 俺は少し考えてみた。
蜻蛉洲は絶対に反対するだろう。
これは、言わなくても判る。

 フィエステリアームは正直想像がつかない。
どっちでも良いと言いそうな気がする。

 令子は興味無さそうか。
了解しそうな気もするが、しかしオオムカデンダルは……
俺はそこで考えるのをやめた。
たぶんオオムカデンダルは面白がって来いと言うだろう。
彼がそう言えば、否も応も無くなる。

 だが、それが本当に望ましいかどうかは……

 あまり皇族と関り合いになるべきでは無い。
俺はそう思う。
たぶん蜻蛉洲もこちらの意見だろう。

 これは最初に誰に了解を求めるかで、だいぶ話が変わってくるな。
俺は慎重に考えた。

 うん。
ここはやはり、蜻蛉洲に了解を求めるべきだろうと思う。
最も常識的な判断を下す人物に任せる方が良いに決まっている。
第一、後々面倒にならずに済む。

「……それは私の一存では決められません。申し訳ありませんが、確認をとらせて頂いても宜しいでしょうか?」

「ふむ。それもそうじゃの。では待つとしよう」

 ソル皇子はそう言って道の端に腰を下ろす。
この人、本当に皇族か。
俺は頭を抱えながら管理人を呼び出した。
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