見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五九四

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「アイツはいったい誰なんだ」

 俺はオオムカデンダルに説明を求めた。

「九条晃。またの名をベクターシード。俺の居た世界で敵だった男だ。目茶苦茶しつこくてなあ、いっつも邪魔ばっかりしやがる」

 オオムカデンダルはそう言ったが、そこまで憎んでいるようにも見えなかった。

「まあ、悪の秘密結社がいれば、それを阻止しようと言う奴らも出てくる。晃はそっち側だ」

「ベクターシードはプロジェクト名よ。正式には『何とかスーツ二号』だった筈」

 ウロコフネタマイトがそう言いながら変身を解く。
すぐに令子の姿に戻った。

「え!?そうだったのか!」

 オオムカデンダルが驚いて令子を見た。

「……呆れた。知らなかったの?」

「……スマン。知らなかった」

 どっちもどっちだが、何とかスーツの『何とか』の部分は令子も知らないのか。

「忘れちゃったわ。遠い昔の事だし、もう会う事も無い筈だったから」

 無理もないか。
彼らは遥か大昔にこの世界に来ていたと言う。
長い間、緑の谷のあの屋敷でずっと隠遁生活を送っていたのだ。
気の遠くなるほどの時間を。

 まてよ。
だとするとあの九条晃も改造人間なのか。
生身の人間がそんな長生き出来る筈が無い。

「……いや違う。晃は生身の人間だった筈だ。何故生きているのか俺にも判らん。だがあの態度。俺の知っている九条晃とも違う」

 オオムカデンダルが何かを考えながら話す。

「確かに真面目な晃くんとは違っていたわね。凄くダーティーな雰囲気だったわ」

「ま、こんな世界に飛ばされて、訳も判らず生きてきたとしたら人も変わるわな」

 オオムカデンダルはそう言って肩をすくめた。
人は何百年も生きたりしない。

「あのボロボロの装甲を見る限り、俺たちとの決戦の跡なのは間違いないだろうな。ただ修復できていない所を見ると、奴一人で来ている可能性が高い。もしくは修復出来るメンバーが居ないか……」

 俺はあまり会話についていけていない。
彼らの因縁の話なのだろうから、俺が知らなくても良い話なのかもしれんが。

「少し、昔の事をもう一度検証してみる必要があるわね」

「ああ」

 オオムカデンダルと令子はお互いに意見が一致した。

「ところで、オオムカデンダルよ」

 いつの間にかソル皇子が脇に立っている。
俺は少しビックリした。

「お、殿下。無事で何より」

「ところがの、ちっとも無事ではないのう」

 なに。

「何か被害が有ったのかい?」

「うむ、あった」

 何だそれは。
ソル皇子が指を指す。

「そちに貰うたこーひーとケーキがのう、わやじゃ」

 ソル皇子の指さした先を見ると、木箱が破壊されていた。
当然中身も跡形もない。

 これは……俺のせいなのか?

 俺はひとまず黙っていた。

「ああ、そうか。よし判った。後で新しく送り届けよう」

「まことか!」

「ああ、まことまこと。何なら量も増やしてやる」

「おお、それはありがたい。楽しみにしておるぞ」

 ソル皇子は自分の命が狙われた事など、少しも話題にしなかった。
やはり、ひとかどの人物だなと思う。

 ……待てよ。

 それを届けるのは俺なのか?
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