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六〇一
「もっと、でございますか」
「午後の茶の時間が待ち遠しくてたまらぬ。せめて晩餐の後に、それか寝る前にでも、もう一度食したいのだ」
釣れた。
まさか、皇帝にここまで言わせるとは。
確かにあれは旨い。
俺もその気持ちは判らんでも無い。
俺がそこまでケーキに依存しないのは、やはり体が生身では無いからなのかもしれない。
砂糖と言う物はそれほどまでに常習性が強いと言う事か。
フィエステリアームの言葉の通りなら、そうなのだろう。
この世界では砂糖は貴重品だ。
生産にも限度がある。
あれほど大量に、しかも上質な白い砂糖と言うのは、俺もお目にかかった事が無い。
これを握ると言う事は、皇帝さえも釣れてしまうと言う事なのだ。
これは地味に凄い事だ。
「お待ち下さい陛下」
突然、別の声が割り込んだ。
ソル皇子の実兄であり、皇位継承第一位のユピテル皇太子殿下だ。
このタイミングでか。
どこで聞き付けた。
「ユピテルか。何だ?」
「恐れながら、幾らなんでも出所が不明な怪しい食べ物を、この城の中でのさばらせてはなりませぬ」
ユピテルは皇帝の御前に膝を着くと、うやうやしくそう言った。
コイツ。
「ふむ。しかしな、余はたまらなくケーキを食したいのだ。お前はそうは思わんのか?」
皇帝がユピテル皇子に尋ねる。
「私はそのケーキなる物も、珈琲なる怪しい飲み物も、一切口にしておりません」
「なんと……!」
皇帝は驚いた。
「私から見れば、皆どうかしております。どの者も一様に『ケーキケーキ』と熱にうかされたようでございます。危険です」
何てこった。
この皇子、食べてないのか。
良くも我慢できたな。
「しかし……」
皇帝が諦めきれない様子でソル皇子を見る。
未練がましい目だ。
しかし、これは不味いぞ。
「陛下、良くお考え下さい。約束も何も、こんな怪しい物を城内で流通させてはなりません。もしどうしても欲しければ、出所は明らかにさせるべきです。出所を明らかに出来ないと言う時点で、既に怪しいのです」
思ったよりも馬鹿ではないのか。
それとも誰かの入れ知恵か。
どっちにしろ、バレたらソル皇子の立場が危うい。
「……では、ユピテルよ。お前にケーキに代わる物が用意できるのか?」
皇帝はユピテル皇子に尋ねた。
「残念ながら出来ません。私は食べてさえおりませんので、味も判りません」
「だったら黙っておれ。お前の言う事は一理あるが、同時にソルが何かを企んでいると言っているのと同じ事ぞ。お前はそう思っているのか?」
ユピテル皇子は言いよどんだ。
思っては居る筈だが、それをここで断言できまい。
確実な証拠が無ければ、立場が危うくなるのはユピテル皇子の方だ。
「それは……」
「恐れながら皇帝陛下。それは違います。ユピテル殿下は万が一の事を危惧して仰っておられるのです」
この声は。
九条晃!
俺は固まった。
何故ここに。
避けなければならない男とこんな所で遭遇するとは。
これで俺は、迂闊に動けなくなった。
「午後の茶の時間が待ち遠しくてたまらぬ。せめて晩餐の後に、それか寝る前にでも、もう一度食したいのだ」
釣れた。
まさか、皇帝にここまで言わせるとは。
確かにあれは旨い。
俺もその気持ちは判らんでも無い。
俺がそこまでケーキに依存しないのは、やはり体が生身では無いからなのかもしれない。
砂糖と言う物はそれほどまでに常習性が強いと言う事か。
フィエステリアームの言葉の通りなら、そうなのだろう。
この世界では砂糖は貴重品だ。
生産にも限度がある。
あれほど大量に、しかも上質な白い砂糖と言うのは、俺もお目にかかった事が無い。
これを握ると言う事は、皇帝さえも釣れてしまうと言う事なのだ。
これは地味に凄い事だ。
「お待ち下さい陛下」
突然、別の声が割り込んだ。
ソル皇子の実兄であり、皇位継承第一位のユピテル皇太子殿下だ。
このタイミングでか。
どこで聞き付けた。
「ユピテルか。何だ?」
「恐れながら、幾らなんでも出所が不明な怪しい食べ物を、この城の中でのさばらせてはなりませぬ」
ユピテルは皇帝の御前に膝を着くと、うやうやしくそう言った。
コイツ。
「ふむ。しかしな、余はたまらなくケーキを食したいのだ。お前はそうは思わんのか?」
皇帝がユピテル皇子に尋ねる。
「私はそのケーキなる物も、珈琲なる怪しい飲み物も、一切口にしておりません」
「なんと……!」
皇帝は驚いた。
「私から見れば、皆どうかしております。どの者も一様に『ケーキケーキ』と熱にうかされたようでございます。危険です」
何てこった。
この皇子、食べてないのか。
良くも我慢できたな。
「しかし……」
皇帝が諦めきれない様子でソル皇子を見る。
未練がましい目だ。
しかし、これは不味いぞ。
「陛下、良くお考え下さい。約束も何も、こんな怪しい物を城内で流通させてはなりません。もしどうしても欲しければ、出所は明らかにさせるべきです。出所を明らかに出来ないと言う時点で、既に怪しいのです」
思ったよりも馬鹿ではないのか。
それとも誰かの入れ知恵か。
どっちにしろ、バレたらソル皇子の立場が危うい。
「……では、ユピテルよ。お前にケーキに代わる物が用意できるのか?」
皇帝はユピテル皇子に尋ねた。
「残念ながら出来ません。私は食べてさえおりませんので、味も判りません」
「だったら黙っておれ。お前の言う事は一理あるが、同時にソルが何かを企んでいると言っているのと同じ事ぞ。お前はそう思っているのか?」
ユピテル皇子は言いよどんだ。
思っては居る筈だが、それをここで断言できまい。
確実な証拠が無ければ、立場が危うくなるのはユピテル皇子の方だ。
「それは……」
「恐れながら皇帝陛下。それは違います。ユピテル殿下は万が一の事を危惧して仰っておられるのです」
この声は。
九条晃!
俺は固まった。
何故ここに。
避けなければならない男とこんな所で遭遇するとは。
これで俺は、迂闊に動けなくなった。
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