見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六〇三

「何を申しておるのじゃ?判るように申してみよ」

 ソル皇子が九条晃にもう一度尋ねる。
晃はじっとソル皇子の目の中を覗き込んだ。

「……いくら兄上の配下とて、余への無礼は許さぬ。申してみよと言ったのじゃ」

 ソル皇子は一歩も退かず、ピシャリと晃の言葉を打ち返した。

「……これは失礼。どうやら私の気のせいだったようでございます。どうかご容赦を」

 晃はそう言うと、『では』と言い残して去って行った。
ユピテル皇子もその後を追うようにして退出する。

 生きた心地がしなかった。
すわ戦闘かと、緊張の糸が張りつめたままだった。

「ソルよ。して、返答は?」

 皇帝がソル皇子に返事を求めた。
何の話だったか忘れてしまった。

「ケーキの増量ですか」

「そうじゃ」

 そうだった。

 ソル皇子は少し間を作ってから、増やせるか聞いてみると答えた。

「聞いてみる、か……」

 皇帝は明らかに落胆した。
何でも思い通りになる皇帝が、相手の都合を聞かなければならないなど初めての事に違いない。
もしも強権的にケーキの製造を強要すれば、最悪の場合二度と手に入らない可能性もある。

 例えば拒否された場合。
例えば逃げられた場合。
拒否する相手を力づくで従わせた場合、死んでしまうリスク。
そもそも相手が判らないのでは、どう言う方法で攻めるべきか見当も付くまい。

 もっとも、どの方法でも実際はオオムカデンダルたちが相手では意味が無いのであるが。
正面切って力で迫ってきた場合が一番悲惨だなと思った。

「陛下。そこまでのご心配には及びますまい。これでも私は相手の者たちとは友好的な関係を結べております。きっと前向きに応じてくれるのではないかと」

「ほ、本当か!?」

「はい。二言はございません」

 今にも皇帝は玉座から飛び上がりそうな勢いで喜んだ。
そんなにか。

「ソルよ。頼んだぞ」

「はい。お任せ下さい」

 ソル皇子はそう言うと、一礼してから退出した。
俺もその後に続く。

「……寿命が縮まりました」

 俺は廊下を歩きながら人の気配が無いのを確認してそう言った。

「ほっほっほっほっ。余もじゃ」

 ソル皇子もなのか。
とんだ役者だな。

「ま、なるようにしかならぬ。慌てても詮無き事よ」

 なんと言う豪胆な。
人は見かけによらないな。
遥かに好戦的で尊大に見えるユピテル皇子の方が、実際には気は小さそうだ。

「ソルよ」

 背後からユピテル皇子が呼び止めた。
晃も一緒か。
わざわざ追ってきたのか。
話は聞かれていない筈だ。
人気が無いのは確認済みだ。

「お前、いったいどう言うつもりだ」

「どう言うつもりとは?」

「とぼけるな。お前、ネオジョルトと何を企んでいる」

 ユピテル皇子が問い詰める。

「はて。何の事やら」

「お前とレオとか言うネオジョルトの者が一緒に居るのはもう知っているぞ」

 この前そこをこの九条晃に急襲されたからな。
ガイたちが手下にされているとは知らなかったが。

「兄上こそ何を恐れておられるのです」

「なんだと!?」

「珈琲でも飲んで少し落ち着かれた方が良ろしいのでは?」

「貴様……俺は次期皇帝だぞ。そんな不遜な態度は許さぬ!」

「判っておりますとも。誰も兄上が次期皇帝である事を否定などしておりませぬ。ひょっとして、私が皇帝の座を狙っているとでも?」

「ぬ……そうであろうが」

「いえいえ。滅相もない。私は皇帝の玉座には少しも興味がありません。誓いましょう」
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