見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六〇六

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「今、銀猫や西の繁華街の連中も使ってビラを撒いている。ここにケーキをもらいに来る奴らが今に殺到する。フィエステリアームを置いて行くから、後はそっちの人間を使ってくれ。今日は苺のショートケーキからだ。城の人間の分は分けてあるから心配するな」

 オオムカデンダルはそう言うと、アゴに手をやった。

「明日辺りにはそろそろ晃も気が付くだろうが、さてどう出てくるかね」

 そう言いながらオオムカデンダルは嬉しそうだ。

「ああ。嬉しいとも。やっと借りが返せるからな」

 そう言ってニヤリとほくそ笑む。

「おい、あれじゃないか?」

 俺はオオムカデンダルの後ろに人の姿を発見した。
城と街の境界になる大通りを渡ってくる女が居る。
その後ろからもちらほらと人影が現れ始めた。

 ソル皇子は慌てて門番に人を寄越すように命令した。
しばらくすると、城門からメイドが数人走って出て来る。

「殿下」

「うむ。このケーキを民草に配ってやれ」

「え?宜しいのですか?」

「構わぬ。大盤振る舞いじゃ」

「はい!」

 ソル皇子の命を受けて、メイドたちがケーキを配り始める。
それをフィエステリアームが指示した。

「こっちの紙袋に入れて。君は人間を並ばせろ。三列だ。並ばないヤツにはやらないぞ」

「人間……?」

 メイドがフィエステリアームの言葉に首をかしげる。

「言い方なんてどっちでも良いだろ。早くしなよ」

「は、はい」

 意外な事にフィエステリアームは、テキパキと指示を出して円滑に作業を進めていた。
なんのかんのと言っても、やはり彼もネオジョルトの幹部なのだな。
並みの子供では無い。

 時間の経過と共に、人々の数はどんどんと増えていく。
それでもケーキと珈琲は十分にある。
この街の人口は一万も居ないからだ。
帝国全体となると、おそらく十万人くらいにはなるだろうが……

「これで下準備は完了だな」

 オオムカデンダルが満足気に言った。

「しかし、ケーキと珈琲ごときでそこまで懐柔出来るのか?」

「ま、見てろよ。彼らの生活は言うほど良くない。ましてやこんな贅沢品なんて一生に一度も食べられまい。それを無料で毎日食べさせるんだ。多少の事なら文句は言わない」

 そんなもんかね。
俺にはにわかには信じられないが。

「人間と言うのはな、幸せな時よりも苦しい時に受けた恩の方が強く残るんだよ。これから始まる戦いに巻き込まれても、ちゃんと救ってやると言うイメージを作るんだ」

 良く判らんが、オオムカデンダルはかなり自信を持っているようだ。

「な?殿下」

「ふむ。実際にこうして民草に紛れてみると、余が思っていた庶民の実態はまだまだ明らかでは無かったようじゃの。実際に触れてみて判る事もある。オオムカデンダルよ、為になったぞ」

「へっ。アンタはやっぱり良い王様になるぜ」

「余は王にはならんよ。それに王では無い。皇帝じゃ」

「ま、どっちでも良いさ」

 オオムカデンダルはそう言って民衆の列を眺めた。
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