見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六二一

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 口に入れたケーキをバルバは黙って咀嚼した。

「……」

「お、おい……」

 沈黙するバルバをガイが不安そうに見つめた。

「……旨い」

「お前まで……」

 バルバの静かな一言は、ガイにとってショックだった。
バルバまで。
そんな気持ちが顔に表れている。

「ガイ。お前も食え。いや、食うべきだ。本当の事は自分で体験するしかない」

 バルバがガイの目の前にケーキの乗った皿を突き出す。
ガイはそれを黙って凝視した。

「これを……俺も食うのか」

「そうだ」

「これを俺たち全員が食べたら、俺たちの負けなんじゃないか……」

 ガイの表情に葛藤がうかがえる。
ただの焼菓子を食うのに大層な事だ。
だが、ガイにとっては重大な問題なのだろう。
人にとって何が大事かは、それぞれだ。
俺にとって下らなくても、別の誰かにとっては人生を揺るがすほどの事もあるだろう。

 かく言う俺もネオジョルトに入るまで、そんな事はこれっぽっちも考えた事は無かった。
真実はいつも一つだし、世の中の大事な事は誰にとっても同じく大事な事なのだと思っていた。

 だが、それは違うのかもしれない。
そう思うようになったのは、オオムカデンダルたちを見ているとそう感じる事が多いからだ。

 彼らはいつもこの世界の常識を破壊する。
それは一見酷い事のように思うが、それによって被害を被る人間は皆無だ。

 一部の貴族や、金持ちや、既得権益にあずかる者たちにとっては酷い事かもしれないが、その他大勢の人々にとっては常にオオムカデンダルたちは益をもたらしているように思う。

「菓子を食ったからって何に負けるんだよ。食えよ。旨いぞ」

 カルタスがガイを見もせずに言った。
ただひたすら、ムシャムシャとケーキを消費している。
お前は少し食いすぎだ。

「ただの別の価値観だ。食べてみよ」

 バルバがもう一度皿を突き出す。
ガイはしばらくケーキを凝視した後、ゆっくりとケーキを手で掴んだ。

 もぐもぐ

 ガイは一口かじり、静かに味わった。

「……旨いな」

「だろ?」

 カルタスが笑う。
お前は人見知りしないな。
初対面だろうに。

「旨い。だが魅了されるのも判る。これで俺も魅了された訳だ……」

「別に良いじゃん。アタシたち四人一緒なんだから」

 ルガがケーキで頬を膨らませたまま、そう言って笑った。

「しかし、これではアキラが……」

「ケーキ一つでドラマチックだな」

 オオムカデンダルが広間に入ってくるなりそう言った。

「貴様……アキラは、アキラはどうした」

 ガイがオオムカデンダルを問い詰める。

「まあ待てよ。今その準備が済んだところなんだが……」

 オオムカデンダルはそう言いながら、ドカッといつもの席に腰を下ろした。

「……もしも晃がウチに来ると言ったら、お前らも転職するか?」

 は?

 四人は言葉の意味が判らずに、キョトンとした。
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