見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
681 / 826

六八〇

しおりを挟む
 道すがら何匹かのモンスターを蹴散らしてアジトへと帰還した。

「お帰り。で?」

 広間ではオオムカデンダルが俺の帰りを待っていた。

「一応連れて来た」

 俺は後ろに立つヴァルキリーを前に出した。

「お前がここの首領か」

「まあ、そうだが……この人が女神様?」

 オオムカデンダルが俺を見て言った。

「そうらしい」

「へえー」

 オオムカデンダルは興味深そうに上から下までヴァルキリーを眺めた。
本人を前にして遠慮が無いな。

「オニヤンマイザーは?」

「蜻蛉洲なら研究室だろ。新しいモンスターを手に入れて上機嫌だ」

 オオムカデンダルが肩をすくめる。
責任を持って出て行った筈なんだがな。
モンスターをゲットしたら他を忘れてしまうのが蜻蛉洲の悪い癖だ。

「これで全員か?」

 ヴァルキリーがオオムカデンダルに尋ねた。

「いや、あと数名居るが何をしているかは知らん。街で作業しているんじゃないか。最近はあっちも忙しくてね」

 言ったそばからフィエステリアームが戻ってきた。
どこへ行っていたんだ。

「帝国に今日の分のケーキを届けて来た」

 フィエステリアームは素っ気なくそう言って、定位置に座る。
秘密結社と言うよりもケーキ屋だな。

「来たか」

 九条晃も広間に入って来た。
ヴァルキリーの目的が九条晃なら、彼が居ないと始まらない。

「突然だが今日から世話になる」

 ヴァルキリーが唐突に言った。
転がり込む気か。

「いや、アンタは王女だろ。王国はどうするんだ」

 俺は後ろで居心地悪そうにしている兵士たちの代わりに尋ねた。

「王国は手遅れだ。今戻ってもこのサンドラが危険に晒されるだけだ」

 ヴァルキリーは自分の胸に手を当てて言った。
折れた腕はもう治ったのか。

「帝国がどうか知らんが、王国は権力闘争の 真っ只中でな。プニーフタールの餌場になっているとも知らずに互いに足を引っ張りあっている。このサンドラも近いうちに暗殺される予定だ」

 権力者ってのはそんな事にしか興味が無いのか。
亡国の危機だと言うのに。

「自分が権力を掌握さえすれば、いくらでも事態を挽回できると考えているのだ。愚かな事だ」

その程度で何とかなるなら、邪神など何の脅威も無い。
肌身で恐怖を感じないと、人間などこんな物かもしれない。

「バルログから身を守る為にあれだけの兵士を連れてきた訳では無いぞ。サンドラを守る為に、そして戦を始めさせない為に、城に兵士を残しておきたく無かったのだ。帝国に最近出来た街を取るべきだと主張する大臣も増えたからな。勇み足で出兵されても困る」

 西の繁華街の事か。
やはり隣国にとっては邪魔なのか。
いや、羨ましいのか。
取ってしまおうと言うのはそう言う事だろう。

「ふふふ。別に構わんよ。取れる物なら取ってみれば良い。もちろん抵抗はするが」

 オオムカデンダルが面白そうに笑みを浮かべた。
彼らの力を示す良い機会になると考えているのだろう。
返り討ちにするのが一番良い。
非を相手に押し付けつつ、力を示せるのだから。
上手く行けば相手に巨額の賠償も請求できる。

「そう言う訳だからサンドラの体のまま世話になる」

 ヴァルキリーは勝手に決めた。

「そっちの兵士はどうするんだ。良いのか?」

「わ、我々はどこまでも王女殿下に付いて行く所存だ」

 オオムカデンダルの問いに、若い兵士が答える。

「良くしつけてあるな。良いだろう。許可しよう」

 オオムカデンダルが言った。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...