見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
686 / 826

六八五

しおりを挟む
 俺も後に続いて乗り込む。
メタルシェルが静かに離陸する。

「拠点は教えるが、そこに居るかは保証できん。あれは気ままだからな。誰の言う事も聞かん」

 ヴァルキリーは窓から外を眺めながら言った。

「人間がこのような物を持っているとはな。本当に飛んでいる」

 ヴァルキリーにとっては空を飛ぶ事自体は珍しくも無いだろう。
人間がメタルシェルのような乗り物を持つ事に驚いていた。

「タレントはおそらく、もう必要数揃っている。プニーフタールはいつ甦ってもおかしくないだろうな」

 そんなにギリギリか。
なんとしても阻止しなければ。

「あそこだ」

 ヴァルキリーが窓から外を指差す。
かなり遠いな。
下を見るも、ここがどこだか判らない。
少なくともカッパー王国を超えて更に大陸の端まで来ている事は明らかだ。

 陸地の果てに海が見える。
ずっーと川が続いてそれが海へと流れ込んでいた。

「この辺りは人が住んでいる気配も無いな」

「そんな事は無い。森の中にはいくつかの部落があって、七つの部族が住んでいる。お前たちに比べればほぼ文明らしき物は無いが」

 ずいぶんと原始的な暮らしをしているのか。
ひょっとしたら人間だけでは無いのかもしれない。
エルフやドワーフの類いも、人間を避けて住んでいても不思議は無い。

 メタルシェルを川の近くに降ろす。
森の中で比較的スペースのある場所はここしか無かった。
ここからは歩きと言う事になる。

「付いて来い」

 ヴァルキリーが先を歩き出した。
しかし、こんな所に拠点を移されたら探し出すのは困難だ。
見つからない筈である。

 森の中に巨大な岩があった。
何か岩肌に描いてあるが、これが何かは全く判らない。

「これはかつて、ここに神事の為の祭壇があった場所だ。それが印されている」

 ヴァルキリーはそう言いながら岩を押した。

 ズズズ……

 ゆっくりと岩が横に滑る。
見た目によらず怪力だな。
その下に縦穴が現れる。
隠し通路の入り口か。

「そう言う事だ」

 ヴァルキリーは階段を下りて中へと入って行く。
護衛の兵士も躊躇しながらも後へ続いた。
見上げた忠誠心だ。
俺はその後ろに続く。

「ライト」

 ヴァルキリーがライトの魔法を使う。
光が発生し、岩肌を照らす。
十メートル程度は視界が確保された。

「私は暗闇でも見えるが、お前たちもこれで見えるだろう?」

「ああ、だが俺も暗闇でも見える。護衛にとっては助かるだろ」

「そうなのか。たいしたものだな」

 ヴァルキリーは驚いたような、少しガッカリしたような声を出した。
どのみち護衛の兵士には必要な明かりなのだから、別に無駄では無いだろう。

 結構深いな。
数分歩いたが、まだどこにも辿り着かない。

「ここは元々、神への生贄を幽閉する為に使っていたようだ。逃げ出さないように深く造ったのだろう」

 確かに明かりもなければこの距離を無事に逃げ切るのは難しいだろうな。

「……見られているな」

 ヴァルキリーが静かに言った。

「見られている?」

「ああ、見られている。おそらくバルログだろう。とっくに気付かれている。監視と言うより観察しているな」

 観察。
つまり俺を知ろうとしている訳だ。

「ここまでで良い。お前たちまで巻き込まれる」

「ふふふ、そうはいかんと言っただろう?お前の戦いぶりを見たい。まあ、勝てるとは思わんが、死んだらお前の魂も連れて行ってやるぞ」

 ヴァルキリーはそう言って笑った。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...