見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
751 / 826

七五〇

しおりを挟む
「俺は魔法も科学もどっちも判らん。君がそうしたいと思うようにすると良い。俺は賛成だ」

「良かった。そうすればこれからは私も貴方を助けられる」

 俺を。
そんな事を思っていたのか。
別に気にしなくても良いのに。
俺はそう思ったが、彼女はそう言う人なのだ。
そして、そこも俺が彼女に惹かれる理由でもある。
ただし、たくさんある理由の中の一つであるが。

「そう言えばナイーダの姿が見えないが。彼女は今でもここに居るんだろう?」

「ええ。でもたぶん後二、三日は出て来ないと思うわ」

 二、三日?
なんだ。
出掛けているのか。

「ううん。研究資料をまとめているんだと思うわ。あの子、とても熱心なのよ」

 蜻蛉洲の手伝いをしていると言っていたが、ミイラ取りがミイラになった例か。
もともとモンスターの生態には詳しかったが。

「学者さんになりたいみたいよ」

 ナイーダが学者に。
でもそれはピッタリのような気もするな。
彼女はとても一生懸命だ。
粘り強く、ガッツもある。
きっと良い学者になるだろう。

「貴方は……?」

 え?

「貴方は何になるの?」

「俺は……」

 言いかけて言葉に詰まる。
俺は何に成るのだろう。
もう子供と言う訳では無い。
むしろ今俺は、いったい何になっているのだろうか。

 冒険者とは言い難い。
かと言って傭兵でも無い。
世の中の役に立つ立派な大人かと言われれば、むしろ国家とは敵対関係だし、世界の平和をひっくり返そうとしている側だ。

「ホント、何してるんだろな……俺」

 答えが見つからなくて自然と声が小さくなった。
妹もまだ救えていない。

「レオ」

 彼女は俺の手を、そっと握った。

「大丈夫よ。私と貴方が居れば、何でも出来るわ」

 何でも。

「私が居れば貴方はもっとどこまでも行ける」

 励ましてくれているのか。
俺は情けないな。
もっとしっかりしなくては。

「ああ、そうだな。君さえ居れば、俺はどこまでも行けるよ」

「貴方の妹も二人で救える」

「アニー……ミーアの件を知っているのかい?」

「ええ……私はここからずっと貴方を見ていた。貴方がどうしてきたか、箱の中からずっと見ていたわ」

 そこまで言い掛けて、アニーがピタリと動きを止めた。
俺は不意に彼女の顔を見る。
無表情の仮面。
そこから気持ちを読み取る事は難しい。

「……誰かが近付いて来るわ。七人……ううん、八人」

 アニーが突然そんな事を言いだした。
俺も自分のセンサーを見た。
確かに反応がある。
だが、まだ少し遠いようだ。
反応も小さいし、俺には七人にしか感じられないが。

「小さな反応が先にあるの。それに続くように七つの反応がこちらに迫っているみたい。でも……」

 でも?

「おかしな動き方。真っ直ぐこっちを目指している訳じゃ無いみたい」

 緑の谷に人が来る事などほぼ無い。
ましてやパーティーが来るなんて理由が無かった。
地図にも載らないような辺境の地なのだ。
忘れ去られた地だと言っても良い。

「それは……追われているんじゃないのか?」

 俺はアニーに言った。

「そうだわ。この小さな反応を他の七つが追っているんだわ」

 あんまり愉快な展開じゃ無さそうだが。

「俺が見てこよう」

 俺は席を立った。
そして、立ち上がろうとするアニーを制する。

「ここに居てくれ。すぐ戻る」

 そう言って俺は屋敷を出た。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...