764 / 826
七六三
しおりを挟む
「待て!参った!俺の負けだ!」
ヒゲ面がずいぶんと素直に謝った。
「お、おい!」
「るせえ!お前と違って俺は現実を見られる男なんだよ!」
なるほど。
確かにそうかもしれんな。
「降参だ。だから許してくれよ」
「タダでか?」
俺がナイフをポンポンと放り投げながら尋ねた。
「な、何が望みだ」
「麻薬を買いたい。この辺りで手に入ると聞いたんだがな」
ヒゲ面の顔が真顔になる。
「……アンタ、それをどこで?」
「聞いているのは俺だ。知っているのか、いないのか。それまで俺はここいらを荒らし回るぜ?」
ヒゲ面二人組も、最初の三人も黙って俺の顔を見つめた。
「残念ながらそれはただの噂話だ。ここにそんな物騒な物は……」
俺はヒゲ面が言い掛けた所で、ナイフをパキンと二つに折った。
「!」
カランカラン
それを投げ捨てる。
「それで?俺を騙そうってのか?」
「そ、それは……!」
「王国内である事は間違いない。俺にごまかしは効かんぞ」
縮み上がる男に俺は歩み寄った。
「同じ事は二度言わない主義だが、特別にサービスだ。麻薬を買いたい。案内するか紹介しろ」
俺はヒゲ面の肩に軽く手を置いた。
男が震えているのが判る。
顔を近付けて目の中を覗き込む。
男は我慢できずにギュッと目をつぶった。
「わ……判った。判ったから」
俺はそれを聞いて、ヒゲ面の肩をポンポンと叩いた。
「素直に従うのが長生きの秘訣だったな」
「あ、ああ」
男の肩をグイっと押して先を促す。
ヒゲ面は諦めて歩き出した。
「お前も来いよ」
ヒゲ面が相棒を呼んだ。
一人じゃさすがに心細いらしい。
相棒もこれまたヒゲ面だ。
違いと言えばそいつは赤毛の赤ヒゲって所か。
「お、俺は黒ヒゲって呼ばれてる。コイツは赤ヒゲ。アンタ名前は?」
そのまんまの名前じゃないか。
まあ冒険者なんて、あだ名や二つ名で呼び合うのは珍しくない。
見た目の特徴をあだ名として呼ぶ事が多いが、たまにライトニングとかゴッドウィンドとか、大袈裟な呼び名を名乗る奴も居る。
そんな場合は、名前負けしてる奴かよっぽどのビッグネームかのどちらかだ。
黒ヒゲは店の中に入ると、店のマスターに話し掛けた。
マスターが俺をチラリと盗み見る。
「こっちだ」
黒ヒゲが振り返って俺を呼んだ。
俺は黒ヒゲに従って後に続いた。
店の裏へと案内される。
こんな所に何があるのか。
隠し通路か、隠し部屋か。
「入れ」
マスターがポツリと一言そう言った。
俺はマスターの目を見たが、マスターは正面を見据えたまま誰とも目を会わせない。
罠でも何でも構わない。
話が先へ進むのなら、展開はあった方が良いのだ。
俺は言われるままに部屋へと入った。
ガチャリ
後ろで扉が閉まる。
がっちゃん!
鍵まで掛かったか。
だが、こうなったからにはビンゴだと言っているような物だ。
正解は近い。
「何の真似だ?」
「一見客がいきなりこんな近くに現れたら怪しいに決まっているだろ。貴様が何者かはこれから吐かせてやる」
マスターが覗き窓からこちらを見てそう言った。
「大丈夫か?コイツめちゃくちゃ腕が立つぜ?」
「情けないヤツめ。鬼の黒ヒゲもボケたんじゃないのか」
「なんだと!テメエやるってのか!」
「ふん。貴様とやっても得が無い。俺は得にならん事はやらん……おそらくコイツは例のアレだろう」
マスターが一層声を潜めてそう言った。
それでも俺には聞こえるが。
例のアレって何だ。
まあ、今は良いだろう。
さて。
どうするか。
このまま暴れるのも簡単だが。
ドアを破るのは容易い。
だが、こいつらをこれ以上締め上げても喋らないかもしれない。
このまま黒幕に近い奴が現れるなら、その方がずっと近道だ。
例のアレってのも気になる。
俺はしばらく様子を見る事にした。
ヒゲ面がずいぶんと素直に謝った。
「お、おい!」
「るせえ!お前と違って俺は現実を見られる男なんだよ!」
なるほど。
確かにそうかもしれんな。
「降参だ。だから許してくれよ」
「タダでか?」
俺がナイフをポンポンと放り投げながら尋ねた。
「な、何が望みだ」
「麻薬を買いたい。この辺りで手に入ると聞いたんだがな」
ヒゲ面の顔が真顔になる。
「……アンタ、それをどこで?」
「聞いているのは俺だ。知っているのか、いないのか。それまで俺はここいらを荒らし回るぜ?」
ヒゲ面二人組も、最初の三人も黙って俺の顔を見つめた。
「残念ながらそれはただの噂話だ。ここにそんな物騒な物は……」
俺はヒゲ面が言い掛けた所で、ナイフをパキンと二つに折った。
「!」
カランカラン
それを投げ捨てる。
「それで?俺を騙そうってのか?」
「そ、それは……!」
「王国内である事は間違いない。俺にごまかしは効かんぞ」
縮み上がる男に俺は歩み寄った。
「同じ事は二度言わない主義だが、特別にサービスだ。麻薬を買いたい。案内するか紹介しろ」
俺はヒゲ面の肩に軽く手を置いた。
男が震えているのが判る。
顔を近付けて目の中を覗き込む。
男は我慢できずにギュッと目をつぶった。
「わ……判った。判ったから」
俺はそれを聞いて、ヒゲ面の肩をポンポンと叩いた。
「素直に従うのが長生きの秘訣だったな」
「あ、ああ」
男の肩をグイっと押して先を促す。
ヒゲ面は諦めて歩き出した。
「お前も来いよ」
ヒゲ面が相棒を呼んだ。
一人じゃさすがに心細いらしい。
相棒もこれまたヒゲ面だ。
違いと言えばそいつは赤毛の赤ヒゲって所か。
「お、俺は黒ヒゲって呼ばれてる。コイツは赤ヒゲ。アンタ名前は?」
そのまんまの名前じゃないか。
まあ冒険者なんて、あだ名や二つ名で呼び合うのは珍しくない。
見た目の特徴をあだ名として呼ぶ事が多いが、たまにライトニングとかゴッドウィンドとか、大袈裟な呼び名を名乗る奴も居る。
そんな場合は、名前負けしてる奴かよっぽどのビッグネームかのどちらかだ。
黒ヒゲは店の中に入ると、店のマスターに話し掛けた。
マスターが俺をチラリと盗み見る。
「こっちだ」
黒ヒゲが振り返って俺を呼んだ。
俺は黒ヒゲに従って後に続いた。
店の裏へと案内される。
こんな所に何があるのか。
隠し通路か、隠し部屋か。
「入れ」
マスターがポツリと一言そう言った。
俺はマスターの目を見たが、マスターは正面を見据えたまま誰とも目を会わせない。
罠でも何でも構わない。
話が先へ進むのなら、展開はあった方が良いのだ。
俺は言われるままに部屋へと入った。
ガチャリ
後ろで扉が閉まる。
がっちゃん!
鍵まで掛かったか。
だが、こうなったからにはビンゴだと言っているような物だ。
正解は近い。
「何の真似だ?」
「一見客がいきなりこんな近くに現れたら怪しいに決まっているだろ。貴様が何者かはこれから吐かせてやる」
マスターが覗き窓からこちらを見てそう言った。
「大丈夫か?コイツめちゃくちゃ腕が立つぜ?」
「情けないヤツめ。鬼の黒ヒゲもボケたんじゃないのか」
「なんだと!テメエやるってのか!」
「ふん。貴様とやっても得が無い。俺は得にならん事はやらん……おそらくコイツは例のアレだろう」
マスターが一層声を潜めてそう言った。
それでも俺には聞こえるが。
例のアレって何だ。
まあ、今は良いだろう。
さて。
どうするか。
このまま暴れるのも簡単だが。
ドアを破るのは容易い。
だが、こいつらをこれ以上締め上げても喋らないかもしれない。
このまま黒幕に近い奴が現れるなら、その方がずっと近道だ。
例のアレってのも気になる。
俺はしばらく様子を見る事にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる