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七六四
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どのくらい経っただろうか。
俺は部屋の床に座ってじっとしていた。
コツ、コツ、コツ、コツ
足音が近付いて来る。
やっとか。
俺はドアの前に足音が止まるのを待った。
何者かが覗き窓からこっちを窺う。
がっちゃん
ギイイィ
鍵が開いて、ドアも開いた。
不用心な。
そんな簡単に開けて良いのか。
俺はドアの外の人間をじっと見た。
「お前か。馬鹿な冒険者ってのは」
男が入ってくるなりそう言った。
見るからに粗暴な雰囲気を醸している。
頭を下げなければ扉もくぐれない身長。
馬鹿デカいな。
絵に描いたような大男だった。
手に大きな鞄を持っている。
なんだ。
武器じゃないのか。
この見た目なら武器を担いでいそうなイメージなんだが、まさかお医者さんだなんて言わないよな。
俺は黙って大男を見守った。
男が部屋に入ると、再び扉が閉められる。
がっちゃん
ドスン
男が鞄を床に置く。
重たそうだな。
何が入っているのか。
「お前、どこから来た」
大男が俺に尋ねた。
「緑の谷からだ」
「緑の谷だあ?あんな所に人が居る訳無いだろ」
「どうでも良いだろう。住んでいるんだから仕方あるまい」
「ふん。それで、誰の差し金だ」
男は本題に入った。
結局それが聞きたかったのだろう。
だが、いきなりそこから入ると言うのは、麻薬を売る気は無いと言う事か。
「買いたいと言っているのだから売れば良かろう。こんな事して、商売する気は無いのか?」
「何の話か判らんが、ここには売る物など無い。俺は怪しい奴の口を割らせるのが仕事なんだ」
なるほど。
あくまでも麻薬に関しては口を割らんと。
その上で怪しい奴は拷問に掛けようって訳だ。
どうやら麻薬の線はビンゴだが、ここにこれ以上居ても収穫は無さそうだな。
となれば、こっちがさっさと口を割らせて先に進むのが良いだろう。
「ふふふ、久し振りの仕事だからな。ゆっくりと楽しもうや」
大男はそう言いながら鞄を開ける。
中には大工道具がギッシリと入っている。
本棚でも作ろうってのか。
「ふふ、お前中々余裕があるじゃねえか。そう言うヤツは久し振りだ。腕が鳴るぜ」
その鳴った腕は日曜大工に生かしてくれ。
そんな俺の考えをよそに、男が革の拘束具を取り出す。
「まずはこれから付けてもらおうか。なあに、すぐに気にならなくなるぜ」
大男が革のベルトを俺の腕に取り付ける。
そうしておいて首にも取り付けると、両手と首は鎖で繋がれた。
「くひひひ。さて、何から始めるか……」
大男が見た目に似合わず、ドレスを選ぶ女の子のように鞄を探る。
「ところで、町ではあまり麻薬中毒を見掛けなかったんだが、どこで捌いているんだ?かなりの量を供給しているだろう?この裏通りにすら中毒者を見掛けなかったぞ」
大男がピタリと動きを止める。
「テメエ……やっぱりただの客じゃねえな。しかし、お前が心配する事じゃねえ。お前はこれから答える方だ」
これだけ有利な状況でも秘密を漏らさないとは、徹底しているな。
大男は鎖を床の金具に固定すると、やっとこを取り出した。
「さあて、じゃあゲームをしよう。質問に答えられたら頭を撫でてやる。だが、答えられなければコイツで爪を剥がしてやる。チャンスは十回だ」
いきなりそれか。
スピード感あるじゃないか。
俺も見習って少し行動を早めよう。
大男が俺の首の鎖を引っ張った。
ビーン
鎖が真っ直ぐに張る。
グイッグイッ
男が力を込めて鎖を引くが、俺はビクともしない。
「く……この……この野郎……!」
顔を真っ赤にして鎖を引っ張る。
だが、俺にとっては何も起こっていないのと同じだった。
「お前は痛みに強いのか?」
「な、なに?」
俺は普通に鎖を引っ張り返す。
床の金具が弾け飛び、簡単に身動きが取れるようになった。
男は引っ張られて前のめりになる。
「!?」
その男の顔を目の前に引き寄せ、俺は男の耳を掴まえる。
「いて、痛ててて!な、何しやが……!」
「質問に答えなければ、今度はお前の耳が無くなる事になる。チャンスは二回だ」
俺は部屋の床に座ってじっとしていた。
コツ、コツ、コツ、コツ
足音が近付いて来る。
やっとか。
俺はドアの前に足音が止まるのを待った。
何者かが覗き窓からこっちを窺う。
がっちゃん
ギイイィ
鍵が開いて、ドアも開いた。
不用心な。
そんな簡単に開けて良いのか。
俺はドアの外の人間をじっと見た。
「お前か。馬鹿な冒険者ってのは」
男が入ってくるなりそう言った。
見るからに粗暴な雰囲気を醸している。
頭を下げなければ扉もくぐれない身長。
馬鹿デカいな。
絵に描いたような大男だった。
手に大きな鞄を持っている。
なんだ。
武器じゃないのか。
この見た目なら武器を担いでいそうなイメージなんだが、まさかお医者さんだなんて言わないよな。
俺は黙って大男を見守った。
男が部屋に入ると、再び扉が閉められる。
がっちゃん
ドスン
男が鞄を床に置く。
重たそうだな。
何が入っているのか。
「お前、どこから来た」
大男が俺に尋ねた。
「緑の谷からだ」
「緑の谷だあ?あんな所に人が居る訳無いだろ」
「どうでも良いだろう。住んでいるんだから仕方あるまい」
「ふん。それで、誰の差し金だ」
男は本題に入った。
結局それが聞きたかったのだろう。
だが、いきなりそこから入ると言うのは、麻薬を売る気は無いと言う事か。
「買いたいと言っているのだから売れば良かろう。こんな事して、商売する気は無いのか?」
「何の話か判らんが、ここには売る物など無い。俺は怪しい奴の口を割らせるのが仕事なんだ」
なるほど。
あくまでも麻薬に関しては口を割らんと。
その上で怪しい奴は拷問に掛けようって訳だ。
どうやら麻薬の線はビンゴだが、ここにこれ以上居ても収穫は無さそうだな。
となれば、こっちがさっさと口を割らせて先に進むのが良いだろう。
「ふふふ、久し振りの仕事だからな。ゆっくりと楽しもうや」
大男はそう言いながら鞄を開ける。
中には大工道具がギッシリと入っている。
本棚でも作ろうってのか。
「ふふ、お前中々余裕があるじゃねえか。そう言うヤツは久し振りだ。腕が鳴るぜ」
その鳴った腕は日曜大工に生かしてくれ。
そんな俺の考えをよそに、男が革の拘束具を取り出す。
「まずはこれから付けてもらおうか。なあに、すぐに気にならなくなるぜ」
大男が革のベルトを俺の腕に取り付ける。
そうしておいて首にも取り付けると、両手と首は鎖で繋がれた。
「くひひひ。さて、何から始めるか……」
大男が見た目に似合わず、ドレスを選ぶ女の子のように鞄を探る。
「ところで、町ではあまり麻薬中毒を見掛けなかったんだが、どこで捌いているんだ?かなりの量を供給しているだろう?この裏通りにすら中毒者を見掛けなかったぞ」
大男がピタリと動きを止める。
「テメエ……やっぱりただの客じゃねえな。しかし、お前が心配する事じゃねえ。お前はこれから答える方だ」
これだけ有利な状況でも秘密を漏らさないとは、徹底しているな。
大男は鎖を床の金具に固定すると、やっとこを取り出した。
「さあて、じゃあゲームをしよう。質問に答えられたら頭を撫でてやる。だが、答えられなければコイツで爪を剥がしてやる。チャンスは十回だ」
いきなりそれか。
スピード感あるじゃないか。
俺も見習って少し行動を早めよう。
大男が俺の首の鎖を引っ張った。
ビーン
鎖が真っ直ぐに張る。
グイッグイッ
男が力を込めて鎖を引くが、俺はビクともしない。
「く……この……この野郎……!」
顔を真っ赤にして鎖を引っ張る。
だが、俺にとっては何も起こっていないのと同じだった。
「お前は痛みに強いのか?」
「な、なに?」
俺は普通に鎖を引っ張り返す。
床の金具が弾け飛び、簡単に身動きが取れるようになった。
男は引っ張られて前のめりになる。
「!?」
その男の顔を目の前に引き寄せ、俺は男の耳を掴まえる。
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