見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
774 / 826

七七三

しおりを挟む
 夕方前だった事もあり、間もなく薄暗くなってきた。
人通りはどんどんと少なくなっていく。
当然子供も出歩かない。

「今日はもう子供も来ないよ」

 ケンが言った。

「そうかもしれんし、来るかもしれない。何があるか決めるのは俺たちじゃない」

「それはそうだけど、本当にこのままずっと見てるのかい?」

 ケンがあきれたように言った。

「張り込みってのはそう言う物だが?貴族様は帰った方が良いんじゃないか」

 俺は突き放すように言った。

「そう言う言い方はカチンと来るな」

 ケンが怒ったように言う。

「相手は俺たちの都合なんか聞いちゃくれないんだぞ。夜になったから帰るなんてのは無いんだよ」

「しかし、誰も来ないのを判ってて張り込むのは違うんじゃ……」

「うるさい。文句言うなら帰れ。見つかるだろうが」

 俺はイライラしてケンにそう言った。

「レオ、来たわよ」

 突然アニーの声がした。
どこだ。
同時にセクトパピヨンが反応する。
確かに遠くから誰かが来る。
小さいな。
子供か。

 俺は唇に人差し指を立てて見せる。
ケンはそれを察して沈黙した。
目で何処だと尋ねてくる。
俺は大通りの北側を指で指した。

 しばらくすると、二つの人影が近くまでやってきた。
子供が来たからと言って、必ず拐われる訳では無いだろうが、俺たちは息を殺して子供を見守った。

「お兄ちゃん、暗くなってきたよ……」

 不安そうに女の子が言う。
兄と妹らしい。

「ああ。早く帰らなきゃ、お父さんとお母さんが心配する」

「でもおじいちゃん、何とも無くて良かったね。お土産もこんなに貰っちゃった」

 妹が嬉しそうにバスケットを持ち上げた。

「落とすなよ。おやつ無くなるぞ」

「だいじょうぶっ!」

 妹はそう言うと兄の手をぎゅっと捕まえた。
二人は手を繋いで路地の前を通過する。
俺もケンも、心持ち緊張して二人を見守った。

 ピーピーピーピー

 耳の中で警告音が鳴った。
テクノセクトからの警告音だ。
俺は当たりを見渡す。

 なんだ。
何も見えない。
レーダーにも何も反応は無かった。
どう言う事だ。

「わああああ!お兄ちゃん!」

 突然妹が叫ぶ。
俺は慌てて建物の下を覗き込む。
女の子が急に何かに引かれるように、引きずられている。
だが、そこには何も無い。

「な、なんだあれは」

 ケンも驚きを隠せない。

「チャコっ!」

 兄が慌てて妹を追い掛ける。

「お兄ちゃんっ!」

 妹の手からバスケットが落ちて、地面を跳ねた。

「チャコーっ!」

 ばっ!

 その瞬間、ケンは屋根から飛び降りていた。
俺は飛び降りるタイミングを失う。
二人で行く必要は無い。
一人は上から正体を見極めるのだ。

 すたっ

 着地するとケンは女の子に覆い被さる。

 ぐんっ!

 女の子を捉まえたケンごと、体が引かれていく。

「なんなんだ、これはぁ!」

 ケンが叫びながら抵抗する。

「痛い!痛いよお!」

 女の子が叫ぶ。
ケンが引っ張ると、女の子は体を左右から引かれて痛いと訴える。

「ぎゃああ!」

 あまりの叫び声に、ケンは思わず手を離した。
その瞬間に女の子はスピードをつけて、そのまま路地の奥へと飛ぶように移動した。
俺のレーダーには相変わらず反応が無い。

「アニー、どうなってる!」

「待って、今調べているわ。あなたはこのまま女の子を追って」

 俺は言われてそのまま屋根の上を走り出した。
上からケンに男の子を頼むと合図を送る。
ケンは判ったと返事して、男の子の方へと戻っていった。

「逃がすか!」

 俺は速度を上げて屋根伝いに女の子を追った。
この先は突き当たりだ。
左右どちらかに曲がるしかない。

 ぎゅん

 女の子はなめらかに角を曲がると、右へとそのまま消えていく。
俺は先回りするべく、屋根の上を斜めに走る。
隣の建物に飛び移り、この辺りだと見当を付けて飛び降りた。

「!?」

 だんっ!

 着地した俺の周囲には誰も居なかった。
そんな馬鹿な。
人通りは無い。
隠れるような場所もない。
辺りは建物の裏手で、出入り口も窓も無かった。

 消えた。
忽然と人が消えたのだ。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...