見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八三

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 ケンは疲れた様子で天井を見上げた。

「鐘……そうか……あれが」

「アレを破壊出来なければ、延々とアンデッドモンスターと戦わなければならないかもしれん」

 問題は実は深刻だ。
アンデッドモンスターの中には物理攻撃をほとんど受け付けない者も居る。
そうなれば、魔法の使えるケン頼みにならざるをえない。
しかし、このまま高レベルモンスターが青天井で出現した場合、レベル差によっては普通に勝てない相手が出現する可能性もある。
例えばワイト、レイス、リッチ辺りだ。

 その時は変身するしかない。

 俺はそう思っているものの、ケンまで守れるかどうかは判らなかった。

「なるほどね。リッチでも出て来られたら、さすがに堪んないもんな」

 ケンは機敏に俺の考えを読み取った。
疲れた体で剣を構える。
衝撃波突きか。
ここまでケンは連戦が続いている。
少し休ませてやらないと。

「はっ!」

 ボッ!
ボッ!
ボッ!

 ケンが衝撃波突きを繰り出す。

 ガインッゴーン!
ゴーン!
ゴゴゴーン!

 歪な音を発てて鐘が揺れた。
破壊するまでには到らない。
距離があり過ぎるか。
鐘が歪んだ程度で、落ちるまではいかなかった。

「情けないな……あの程度も落とせないなんて」

 ケンが肩で息をしながら言った。
これ以上は限界だな。

 リンガーン!
リンゴガアーン!

 歪んだせいで鐘の音まで歪になった。

「何が来るんだ?」

 ケンが身構える。
だが、しばらく待っても何も現れない。

「ひょっとして音色が変わったから?」

 ケンが俺を見る。
俺にも判らん。
だがそうだとすれば、これはラッキーだ。
今のウチにとっとと脱出して、ボスを突き止めた方が良い。

「大丈夫か?」

「ああ、何とかね。女の子の黄色い声援でもあればもっと頑張れるんだけど」

 ケンが強がった。

「それは自分の親衛隊にでも頼むんだな」

 俺はそう言ってケンに肩を貸した。
入ってきた方の壁に向って二人で歩く。

「頑丈そうだぞ」

「他の壁よりは容易いだろ。なんせ向こうは通路だからな」

 ゴゴゴ……

 その壁が、ゆっくりと開き始めた。
なんだ。
帰してくれるのか。
そんな訳は無いか。

 わずかに開いて壁は止まった。
その間から何者かが現れた。

「おいでなすったか。思ったよりも早かったな」

 ケンがそう言って俺を見た。
俺には特に考えなど無かったが、とりあえずそれらしい顔をして黙っておく。

「さすがは王国にその人ありと謳われるケン・バーロックだ。見事な物だな」

 フード付きケープに、口元には布を張った姿で男が近付いて来る。
目元しか判らないが若くは無いな。
声も低く野太い。
少なくとも仲間では無さそうだった。

「それともう一人は……冒険者のようだが。ケン・バーロックと一緒と言う事は、それなりの腕だと見て良いのかな?」

「へへ。レオは凄腕だよ?僕が頼りにするんだから間違い無いね」

 売り言葉に買い言葉なのだろうが、あまり勝手な事は言わないでもらいたい。
警戒されたく無い。

「それで、試験にでも合格したから出してくれる気になったのかい?何の試験かは知らないが、合格祝いは猛牛亭が良いな。あそこのステーキが一番旨いんだ」

「騎士団の隊長のクセに軽口を叩きおって」

「ノンノンノン。総隊長ね。全然格が違うんだから間違えないでね」

 まったく、本当に口が減らないな。
俺は思わず、謎の男と意見を同じにしそうになる。

「そんな事はどうでも良い。まさか召喚の鐘が壊されるとは思わなんだ。仕方なくワシが出向く羽目になってしまったわ」

 やはり、直接潰しに来たか。
ケンが限界だと見て、安心したんだろう。
だがそれは見込み違いだ。

「勇者の家系が絶えてしまうのは惜しいが、邪魔な者は邪魔なのだ。判ってくれ」

「……アイツ、あんな事言ってる」

 ケンが不服そうに俺を見る。
だが言葉とは裏腹に、ケンはもうやる気になっていた。

「あんまり勇者を軽く見るなよ」

 ケンが不敵に笑って俺から離れた。
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