見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八八

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「くっ……ぐぐぅ……!」

 男が潰れた自分の膝を見詰める。
大の男が膝一つで情けない顔しやがって。
まだ十歳にも満たない子供を棍棒で殴り付けるような連中が、自分の膝は愛おしいってのか。

 俺は余計に腹が立ってきた。

「おい。早く答えろ。お前の膝はもう一つ残っている事を忘れるなよ」

 男が恐怖に満ちた顔で俺を見る。
そして、救いを求めるようにケンの顔と見比べた。

「レオ……」

「俺の決意表明はさっき言った通りだ。共感するかどうかはお前の勝手だが、邪魔をするならお前でも容赦はしない」

 俺はピシャリとケンの言葉を遮った。
そうなのだ。
俺は秘密結社ネオジョルトの怪人、サフィリナックスだ。
相手が勇者であろうが聖女であろうが、邪魔をするなら容赦はしない。

 正義の反対は悪では無い。
正義の反対は『また別の正義』なのだ。
俺はそれをネオジョルトから学んだ。
俺は俺の正義を遂行する。
例え俺の敵が正義の味方だろうと関係無いのだ。

 俺には俺の正義がある。

 じり

 一歩、また一歩と威圧的ににじり寄る。
男は今にも泣き出しそうにケンの顔を見た。

「……ッ」

 ケンは断腸の思いで男から顔を背けた。

「そんな……総隊長……!」

「諦めろ。自分の時だけ慈悲が与えられるとは思わん事だ」

 俺は男の足下に立った。

「さあ、吐け。吐けば良し。吐かなければもう片方も潰れる事になる」

「わ……判ったああ!判ったから!勘弁して下さいぃ!」

 男が鼻水を飛ばしながら泣き喚いた。

「子供たちはぁ……ヒック……労働力と商材に分けられて……ヒック……商材になった方は輸出されるぅ……ヒック……されますぅ」

 泣いてんじゃねえよ。
泣きたいのは子供たちの方だ。

「上に居たのは労働力の方か。売られる子供たちはどこだ」

 俺は更に問い詰める。

「この奥のぉ……地下水路から……ヒック……王城の……地下の……奴隷用居住地区……ヒック……からぁ……檻に詰めてえ……船で……ヒック……沖まで運んで……大型船に……載せ換える……載せ換えますぅ」

 手が込んでるな。
やはり国が関わっていなければここまでは出来ない。

 俺はそこまで聞くと、さっさとこの部屋を抜け出した。

「お、おい。待ってよ」

 ケンが付いて来る。

「何の用だ」

「何の用って……」

 ケンは後ろを振り返りつつ尚も付いて来る。
部下が気になるのか。
優しい男だ。

「別に付いて来なくて構わん。お前の目的は麻薬の密売だろ。こっから先に麻薬は無い」

「まだ何も言ってないだろ」

「じゃあ何故付いて来る。心配なら部下の側に居れば良い。お前がそうしても、俺は別に何とも思わん」

「そんな馬鹿な。放っておける訳ないだろ!」

 俺は足を止めた。

「それは俺をか?それとも子供たちをか?」

 ケンは一瞬だけ面食らった。

「馬鹿にするな!どっちもだ!」

 俺はケンの顔を見詰めた。
甘っちょろいがやっぱり勇者だな。
ふざけたようだが根は真面目だ。
こう言う男が勇者に相応しいのかもしれない。

「……勝手にしろ。俺も勝手にする」

「ああ。分かっているとも!」

 ケンは笑顔を見せると、俺の後に付いて来た。

「そうだ。上の子供たちはどうする?このままだと危険だ」

 確かにそうだな。
俺は少し考えてからアニーに連絡した。

「ここに子供たちがたくさん居る。何とかして救援を呼べないか?」

「判ったわ。ミスリル銀山の方から誰か来てもらうわ」

「頼む。座標を送る」

 俺はそう言うと、テクノセクトから座標を送らせた。

「ねえ、誰と話してんの?」

 ケンが顔を覗き込んでくる。

「仲間に子供たちの救助を頼んだ。その間くらいはテクノセクトたちで保たせられる」

「ふぅーん」

 判ったような判らないような顔で、ケンは引き下がった。
まあ、判ってないだろうな。
上手く説明も出来んし。

 昔、オオムカデンダルが俺の質問に、『面倒だから説明しない』と良く言っていた。
そうか、そりゃ説明しないわな。
俺はオオムカデンダルの気持ちになって、少し笑った。
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