見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九二

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「こ……の……なめんなよ!」

 俺は構わずトロールごと引きずる。
トロールの腕は長く伸びている。
本体は水中に完全に隠れていた。
サフィリナックスフレイムを警戒しているのか。

「レオ!」

 ケンの声がした。
後続を振り切って走ってくる。

「えいやああー!」

 気合もろともケンが飛び掛かって、トロールの腕を斬り捨てた。
トロールの血が噴き出す。

「今だ!」

 ケンが叫ぶ。
ありがたい。

「うおおあ!」

 俺は力を込めてジャンプする。

 がごんっ!

 沈み掛けた船を蹴って、俺は岸へと跳んだ。

 がっちゃん!

 何とか檻を崩さないように着地すると、衝撃を与えないように優しく地面へと置く。

「うわあああん!怖いよおぅ!」

 子供たちが俺を見て恐れおののく。

「ば、化け物だったのか!?」

 チンピラどもも一様に驚いた。
こう言う反応にはもう慣れた。

「少しだけ我慢して待ってろ。すぐに開けてやる」

 俺は子供たちにそう言って、立ち上がった。
パニック状態の子供たちにそんな事を言っても、理解できないだろうが。

「レオ、トロールは再生能力を持っている。倒し方は……」

 ケンが側に寄って来て、俺にトロールの攻略法を伝えた。

「ああ、判っている。心臓か火だ」

「なんだ、知っていたのか」

「火は今さっき知ったばかりだ」

 ケンは肩をすくめた。

「さっきの火を噴いた奴ね。魔法じゃ無さそうだね」

「少なくとも俺にとってはそこまで強敵では無い」

「グアアアアアム!」

 トロールが水面から現れた。
腕はもう再生したらしい。
怒りをあらわにしてこちらを威嚇している。

「トロールが雑魚だって言うのかい?」

「お前だって倒せなくは無いだろ」

「まあね。だって僕は勇者だし」

 ケンが胸を張る。
さすがは勇者、たいしたもんだ。

「今度は俺がやる。お前は休んでろ」

「えー、雑魚どもが残ってるんだけど……」

 ケンがぼやく。

「雑魚退治は休憩と同じだろ」

「ちぇ」

 ケンが舌打ちして、追い付いて来たチンピラどもを一瞥する。

「さあ、行け」

 俺は勇者さまに指図すると、岸へ上がって来たトロールに向かう。

「散々汚い真似をしてくれたな。秘密結社のお株を奪いやがって……」

「ゲッゲッゲッゲッゲ」

 トロールが笑う。
余裕のつもりか。

「いつまでも自分が有利だと思うなよ」

 俺は手から触手を伸ばす。

「サフィリナックスヒューイット!」

 しゅららららららっ!

 一気に伸びた触手をトロール目掛けて打ち付ける。

 ぱしーん!

 トロールがそれを飛び退いてかわす。
触手が地面を強く叩いた。
やはり他のトロールと違って俊敏だ。
だが、それでも俺の敵では無い。

「グゴオオオオオム!」

 トロールの腕がゴムのように伸びる。
こんな芸当も出来るとは。
さっきの腕はこう言う事か。

「サフィリナックスブレード!」

 俺は腕を光の刃に変えると、伸びて来た腕を容易く切り落とす。

「グギャアアアア!?」

 諦めろ。
貴様に勝ち目は無い。
何をしても俺が勝つ。

「ゴオオオオ!」

 瞬時に腕を再生すると、トロールが口から吹雪のような凍る息を吐き出す。

 よくもまあ、次から次へと。
俺は感心したが、もう奥の手は無いなと確信した。

 凍る息には、それほどの威力は無かった。
賢者サルバスの、サモン・ジェネラルフロストとは比べ物にもならない。
精々、中級冒険者パーティーを苦しめる程度の威力だ。

 俺の体の表面が、パキパキと音を発てて凍り付く。

「ゲッゲッゲッゲッゲ」

「喜ぶには早いぜ」

 バキバキバキバキ

 俺は簡単に氷を破壊して歩いて見せる。

「オオオオ!?」

「このピンチに繰り出す技がそれでは、お前にもう奥の手は無い」

「ヒ!?」

 トロールが慌てて背中を見せた。
逃げる気か。

「アシッドバルカン!」

 キュンキュンキュンキュン!

 放たれた酸の雨が、逃げるトロールの背後から降り掛かる。

 じゅああああ!

「グ!グギャアアアア!?」

 白煙を上げてトロールが焼けていく。

「グ!グ!グゴオオオオオム!?」

 再生出来まい。
再生する側から溶けていくのだ。

 蜻蛉洲曰く。
錬金術師の使う王水よりも強力で、硫酸の十万倍の威力を持つ超酸。
それよりも更に強力な『ナントカ酸』。
それよりもまだ強力なんだそうだ。
もう名前も覚えられないくらいヤヤコシイ話だが、とにかくこの世界には存在しない蜻蛉洲特製の特殊な酸である。

 確か一京倍とかナントカ。
単位ももう、俺には良く判らなかった。
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