見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八〇三

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「うわあああ!」

 逃げ惑う船員たち。
しかし、数名がマストの下敷きになった。

「はははははははは!どうにもなるまい!はははははははは!」

 耳飾りの男が高笑いする。

「サフィリナックスブレード!」

 腕を光刃に変えると、俺はクラーケンに飛び掛かる。

 じゅばっ!

 斬れた。
しかし、大き過ぎて切断までには到らない。
全く致命傷には程遠かった。

「サフィリナックスヒューイット!」

 今度は右腕の触手を伸ばす。

 ひゅんっ

 高速で触手を奮う。
それをクラーケンが自らの脚で受け止めた。

 ばしっ!

 たちまち毒が打ち込まれる。
クラーケンがすぐさまのたうち回った。

 ざばあああああ!
ばしゃあああああ!

 大波がうねって船へと降り注ぐ。
数名が海へと流される。
まるで大嵐だ。

 効いてはいるが、巨体過ぎて毒の回りが遅い。
致死量十分な筈なのに即死しない。
大きいと言う事はそれだけで脅威だ。

 ギロリ

 クラーケンの眼が俺を見た。
俺を敵として認識したのか。
船を沈める事よりも、俺への攻撃が優先順位の上になった。

 びゅっ!

 クラーケンの触手が俺に突っ込んで来る。
俺はそれを飛び退いてかわした。

 バアンッ!
バアンッ!
バアンッ!
バアンッ!

 次々に触手が伸びて来る。
甲板を叩き割るような力で俺を追いかけ回した。

「レオ、今そっちにメタルシェルが向かっているわ。もう少しよ」

 アニーの声が聞こえた。
ありがたい。
子供たちを移動させられる。

「アシッドバルカン!」

 超強酸の弾丸をクラーケン目掛けて発射する。

 キュンキュンキュンキュンキュン

 ぶばばばばばばばば!
じゅわあああ!

 食らった瞬間にクラーケンが煙を上げて溶け始めた。
慌ててクラーケンが海中へと姿を消した。

 逃げたか。
海中ではアシッドバルカンの威力は半減以下だ。
酸を薄め、洗い流すつもりか。
だが、まあ良い。
今はメタルシェルが来るまで時間が稼げる。

「くそ!クラーケン!出て来い!ヤツを倒せ!」

 耳飾りの男が声がかすれるほど叫ぶ。
少しはクラーケンの身にもなって見ろよ。
命令ばかりするヤツは恨まれるぞ。

 どおんっ!

 下から突き上げられて船体が大きく跳ね上がる。

「うわあああああ!」

 船員たちは為す術も無く、船の上を転げ回った。
さしずめ鍋の中のジャガイモだ。

 クラーケンの体当たりか。
しかし、これでは船の方が保たない。
早晩船体は真っ二つだ。

 キイイイイイイ……ン!

 聞き覚えのある音が空から近付いて来る。
さすがに早いな。
俺は空を見る。

 メタルシェルが高速でこちらに突っ込んで来るのが見えた。

 さんばあっ!
ばしゃばしゃばしゃばしゃっ!

 水しぶきを上げて、豪快にメタルシェルが着水して来た。

「おおおおお!?なんだありゃあ!」

 船員たちが声を揃える。
お前らには関係の無い物だ。

 俺は子供を抱いたままメタルシェルの屋根へと飛び移る。

 どおんっ!
どおんっ!

 クラーケンが立て続けに船を突き上げる。
もうこれ以上は船は保たない。

 ミシミシッ!
ミキミキミキッ!
ばきしっ!

 船体が悲鳴を上げている。
まだ中には子供たちが居る。
しかも檻も一つ二つでは無い。
数十名の子供たちが、まだ中に囚われているのだ。

 俺はハッチを開くと、そこから子供をメタルシェルの内部へと降ろした。

「しばらく待っていろ。みんなを助けて来る」

 俺が少年にそう告げると、少年は涙を手で拭って頷いた。
ふふ、さすがは男の子か。

 だっ!

 俺は再び船へと飛び移ると、今度は脇目もふらずに船倉へと走った。
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