マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです

隣国へ出発

　
　翌週、アンドレイ様と私は、城館の人たちに見送られ隣国に向けて出発した。
　お供は、騎士団の方々とフェリス。

　騎士団長であるショーン殿は、流感流行性感冒で伏せっていらっしゃるとのことで、お留守番である。実は、アンドレイ様も罹患して、あまり具合が良くないとのことであったが、せっかくのご招待を無碍むげにもできず、無理を押して行くことにされたのだ。

「兄上、マリナ姫、お気をつけて」
「……」
　リヒャルト様が微笑んで言われるのに対して、アンドレイ様は頷かれるだけ。喉の調子が悪く、声が出ないとのことだった。

　リヒャルト様は私の方に向き直り、
「マリナ姫、貴女は侯爵夫人としての最初の公おおやけの場が外交とは大変でしょうが、リラックスして楽しむということで良いと思います。頑張って」
　そんなふうに労っていたわってくれる。
　彼は優しい眼差しで、じっと見つめてきた。

「素晴らしいドレスだ、よく似合ってらっしゃる。兄上もさぞかし自慢に思ってらっしゃるんでしょう？」
　アンドレイ様は再び無言で頷かれた。
　頷いて下さった！

　私は、仕立て職人さんがドレスを届けてくれた時のことを思い出す。


　ピンクのドレスを纏ったまとったフェリスが、楽しげに体を回転させ、鏡に写る自分の全身をうっとりと眺めている。浮かれているといってもいいくらいの様子だった。

「お嬢様、本当にお綺麗ですねぇ」
「ドレスが？ それとも私？」
　私もうきうきした気分で、冗談ぽく尋ねる。

「もちろんーードレスが、です！」
「ひどい！ フェリスったら」
「ウソウソ、ドレスが本当にお似合いで、お嬢様はいつにも増して美しいです」
「そこまで言われると、ウソっぽいわね」

　その時、ドアがノックされ、フェリスがドアのそばまで走って行った。
「どうぞ！」と彼女が言ってドアを開けると、アンドレイ様が佇んでいらっしゃった。
「まあ！ アンドレイ様、どうかなされましたか？」
　彼が私たちの部屋に来るのは初めてだ。

　アンドレイ様はドアの外で立ったまま、じっとしている。
「アンドレイ様？」
　私の呼びかけに、彼がようやく部屋に入って来られた。よく見ると、後ろにジョシュアさんが控えていた。

　その時に、明後日隣国に行く理由と、アンドレイ様のお具合が良くないことを私は初めて知ったのだ。
「ご領主様はこの通りお元気そうですが、お声は出しづらいのです。二、三日中には良くなられると思いますが」
　ジョシュアさんが説明してくれる。

　彼はフェリスを見て、にっこりした。フェリスも嬉しげに微笑んでいる。今、気づいたけれど、ジョシュアさんという人は、なかなか素敵な方だ。リヒャルト様ほどではないけれど、背が高くて、とても見栄えの良い男性。
　馬に乗るのがとても上手で、侯爵辺境伯直属の騎士団員だから、おそらく剣の腕も一流に違いない。