囚われの王女、屈する

紫藤百零

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王女、自分との戦い

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 さらに2時間が経過した。
 ユーフィミアの尿意はもう無視できないレベルまで高まっていた。それもそのはず、町娘どころか並みの貴族令嬢ですら音を上げる量のおしっこが、彼女の腹で解放の時を待ち侘びているのだ。王女といえどひとたまりもない。
 太ももはピタリと閉じられ、耐えきれないのか小刻みにぷるぷる震えている。股間に手を伸ばさないのはお姫さまのプライドか、行き場を求める両手は自身を掻き抱く。

(は、はやく……! このままでは…そ、粗相をしてしまうわ……!)

 息は荒く、その時は近付いているようにみえた。
 気を抜くと両の手が股に向かいそうになるのを意志の力で抑え込む。

(どうして……!? いつもならもっと耐えられるはずなのに……!)

 ユーフィミアはふと城に入る前に飲んだポーションがいつもと違うブランドのものだと思いだした。
 値段は変わらず、効果は1.3倍。ただし体質によってはトイレが近くなる可能性があります。
 そんな謳い文句だった。
 まさか自分が当てはまるとは思いもせず、何も考えずに飲んでしまった。

(飲んだことないブランドのポーションなんて飲むんじゃなかったわ……)

 今更そんなこと考えたって後の祭りでしかない。原因を自覚してしまったことでますます尿意がせまりくる。
 思考に沈むユーフィミアを、強い風が現実に引き戻した。

「ひゃぁっ!!?」

  ローブ越しに肌を撫でた冷風に思わず悲鳴が上がる。
 冷風に誘われ“波”がやってきたのだ。
 じわり、と溢れ出たおしっこが下着を濡らす。

(今、ちょっと出た……!?)

 羞恥に頬を染め上げる。
 もう子どもじゃないのに、誇り高き王族なのに、選ばれし勇者の仲間なのに、ありえない失態を犯した現実がユーフィミアを追い詰めた。
 もう手段は選んでいられないとばかりに両手を股間にあてがう。
 尿意を抑えようとじたばた体勢を変えてみるが、足枷が音を鳴らすだけでどうにもならない。
 おさまらない衝動に、ユーフィミアの思考はパンク寸前だ。客観的に自分がどう見えるかなんて考える余裕はない。
 忌避していた前押さえにもう躊躇はなく、腰などはしたなく揺れている。
 優雅さの欠片もない必死の形相はとてもじゃないが見せられたものじゃない。
 ユーフィミアの思考は一つ。
 然るべき場所まで腹部で暴れる奔流を解放しないことに注がれていた。

(まだだいじょうぶ、まだだいじょうぶ。社交界ではお酒を飲みながら長時間拘束されるなんてよくあることじゃない……! 隣国との交流会のときだって耐えられたもの。辺境伯の領地へお邪魔したときだってなんとかなったし、初めてダンジョンに潜ったときだって平気だったわ……!)

 今までの成功談を上げてどうにか“波”をやり過ごすことに成功した。
 その頃には勇者たちが決戦の場に辿り着いたのだろうか、見張りだったはずの魔物も消えていた。

(あとちょっと、あとちょっとで解放される……!)

 ようやく希望の光が差し込んだかのように思えたが、現実は無情。
 魔力により強化された勇者の斬撃が、轟音と共に城全域を震わせたのだ!
 反射で踏ん張って転倒は防げた。でも、それだけだ。

「え、あっ…………うそ……そんな……や、やだぁ…………」

 力を入れたらまずいところに力を込めてしまった衝撃で膀胱は決壊。
 ローブを黄色く汚しながら白く美しい足をつたい落ちたそれは水たまりを作り出す。
 必死に止めようとするも一度緩んでしまった堰は戻らない。ユーフィミアの意思に反して水たまりは大きさを増していく。

「あ、ぁぁ……」

 言葉にならない絶望の声がもれる。
 コントロールできない身体に反して、ユーフィミアは現実を理解できる程度には冷静だった。

 子どもじゃないのに粗相をした。
 王女なのに粗相をした。
 勇者の仲間なのに粗相をした。
 それも、敵地のど真ん中で!

 ユーフィミアのプライドはずったずたのぼろぼろだ。
 ふらり。腰の力がぬけてへたり込む。
 水流はまだ止まらない。
 もう自分が恥ずかしくて惨めでたまらなくて、いっそ消えてしまいたかった。


 数時間後。
 無事魔王を倒し終えた勇者一行が見たのは、水たまりのなかで呆然とへたり込む、ハラハラと涙を流すユーフィミア王女の姿だった。
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