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町での邂逅

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 コートニーは、護衛に必要なものを準備しに買いだしにきていた。

「聞いたよ、ウォード。町で大立ち回りしたんだって?」
「貴族様の遊びに巻き込まれたんだってな、大変だな。」
「勿論、がっぽりお礼を巻き上げたんだよな。」
「ははは。」

 新しい武器の注文と、研ぎなおしを頼んでいる間の時間に気さくに職人に話しかけられる。

「あら、コートニーちゃん。日持ちの良い肉が入ったのよ。買ってかない?おまけつけちゃうわよ。」
「ウォードちゃんは、うちで果物を買っていくのよねぇ?また乾燥りんごと干しブドウをおまけしちゃうわ。」
「ありがとう。」

 待ち時間に外に出れば、屋台のおばさんに話しかけられた。
 皆、コートニーには恩が何からあるので好意的な反応で話しかけてくれる。
 干し肉と新鮮な果物を買っておまけを貰っていれば、串屋台のおじさんに誘われて二本買ってしまった。
 それをかじろうと路地裏に入れば、フードを被った少年がいた。

「随分と、町の人に好かれているじゃない。」
「あーと、ブライアン様…どうしてここに…」

 周りを見ても護衛らしき人はいない。
 一人でフードだけ被って、華奢なその人はむすくれたように壁に寄り掛かった。

「お前が町に行くのが見えたから、面白そうだと思ったのにヤなもの見ちゃった。」
「ついてきてたんですか。」
 
 コートニーはブライアンの尾行に、全く気がつかなかったことに恥じた。

(最近たるんでるんだろうか…この間も、眠り粉を吸い込んんでしまったし…)

 食べようとしていた串焼きを下ろして、そっと明るい通路へ目をやる。

「…私はやましいことは何もしていませんよ。これからくる任務のための買い出しをしていただけです。」
「別に責めようと思ってついてきたわけじゃないよ。興味があっただけさ。」

 薄暗い路地からブライアンが出てくる。青白くも見える白い肌が暗い路地で更に陰って見える。

「それ、好きなの?」
「串焼きですか?はい、食べやすいので」
「ふーん…」

 二本買っていたので一本渡そうと言う意味で差し出せば、戸惑った末にそのままブライアンはコートニーに手ずからで口に運んだ。
 いわゆる、あーん状態だ。

「ふーん、悪くないね。」
「はぁ…」

 違うと、否定しようにもブライアンは串焼き1つ食べるのにも色っぽく、最後の一欠けらを舌ですくって食べる彼の姿に、つい見とれてしまった彼女は何も言えなくなった。

「あちらの屋台で変えますから、興味があればご自分でどうぞ。」

 うろたえるように、もう一本にかじりついて乱暴に噛みちぎって食べ終えようとする。

「ふふ、こういう時は荒っぽくなるんだ。」
「っ、何か?」
   
 口の端にソースをつけて、最後の一欠けらを口に引っ張り上げて口に入れた彼女を、ブライアンは目を細めてみていた。  
 何か見られてはいけない物を見られた気分になったコートニーは口を乱暴に拭いて、空の串を屋台に返そうと足を動かした。

「コートニー、また学校で、ね。」

 ハッと彼女が振り返るともう路地裏にブライアンはいなくなっていた。

 いつの間にか彼女の頭の中に、今後ブライアンは呼び捨てで良いと命令が残っていた。
 そして乱暴に拭いたはずの口元は綺麗になっていた。


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