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勇者の子孫なんかお断り!7歳

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リヨネッタ7歳

「おまえも年貢のおさめどきと言うものだな!」

 会うなりそう言ってきて、手の甲に挨拶のキスをしてくるスティーブを、死んだ魚のような目で見つめる。
 彼は内密に婚約してから接触が大胆になり、手を握る、腕を組ませるに続いて、手の甲にキスをしてくるようになった。
 リヨネッタ遺憾である。

「なんかうれしそうですね。ヤモリ王子。」
「だれがヤモリ王子だ!おまえこそヤモリ女だろ!ゲテモノ食いのおまえとキ、キスできるのは、僕だけなんだぞ!感謝するがいい。」
「嫌なら結構ですよ。」

 ふんぞり返って、小さな胸を張るスティーブから後ずさって距離をとった。彼女は手をゴシゴシとハンカチで拭きながら、会うたびに恒例の挨拶になりつつある行為を回避できないものかと、思案した。

(全く忌々しい勇者の子孫だ。何とかキスを回避できないものか。いっそ嫌いな虫でも握って仕込んでみるか?泣き虫なこいつのことだ、それでこりるじゃろ…。)

 後にこの作戦は、リヨネッタを更に困らせるが、それはまだ先のこと。

(ふん、せめてこの先も魔王らしく、もっと勇者の子孫を泣かせて困らせてやろうではないか。あわよくば、そのまま婚約破棄だ!)

 ニヤリと意地悪く笑うリヨネッタを、王妃が何か思案する顔で見つめていることに、彼女は気が付いていなかった。



リヨネッタ7歳と半年

 王妃教育を受けた後に、彼女は王妃に呼び出されていた。華やかな王妃の私室に呼び出されたが、公爵家出身の王妃のことを何も警戒していなかった。

 だか、彼女が入室するなり、王妃は全員下がらせて内鍵をかけ、不敵な笑顔になったことで、警戒をMAXにした。
 急に抱っこされた野良猫の様に背中をいからせ、髪をブワッと魔力で膨らませて様子を伺う。

「な、なぜ二人きりになど…?」
「やぁっと2人きりね、リヨネッタちゃん。それとも前世の名前を聞いた方がいいかしら?」
「ひっ、なななな何のことかえ…」

 王妃はきつめの顔立ちを、悪役顔というにふさわしい極悪笑顔に変えた。リヨネッタの心臓が飛び出しそうなほどはねる。

(ばれた?公爵家には王家の血筋は薄いから、勇者の子孫として数えていなかったが、見誤ったか!?)

「おーほっほっほっほ。隠さなくていいのよ。同じ前世の記憶を持つ悪役令嬢同士で仲良くしましょう!!」

 王妃が高笑いを上げて、怖い笑顔のままソファに誘導してきた。

「…む?あくやく令嬢??」
「わたくしの代で乙女ゲームの舞台は3作目まで進んでいたから、息子たちが4作目の舞台になることはわかっていたのよ!!スティーブに対して、ゲームのストーリーとあなたは違うことをしていたわ。わたくしもゲーム通りにならない様にお茶会を変えたりして動いていたけど、あなたも破滅の道をいかないように動いているのでしょう?わたくし半年間あなたを観察してたのよ。」
「え?すまぬ、何を言っているのか本気でわからぬ…オ、ゲー、…なんじゃって?」

 動揺したリヨネッタは魔王だったころの口調がでてしまっていることに気が付かなかった。
 王妃もリヨネッタの反応に首を傾げている。

「動揺していたから前世の記憶はあるのよね??」
「う、うむ。殺された記憶なら…?あっ、ちが…」
「…え、殺された!?あ、ももももしかして、時間巻き戻り系の復讐令嬢もの小説トリップかしら!??だとしたらこのままだとよく見た展開なら王家は滅亡する??それともスティーブだけ廃嫡の流れになるのかしら??」

 リヨネッタには聞き覚えがない単語ばかりで、警戒をといて首を傾げた。

「はて、どういう暗喩だ?妾はとくにスティーブ自身には何も復讐することはないが…」
「え?」
「え?」

(婚約は不服ゆえにスティーブに婚約破棄させようと嫌がらせはするが、復讐とはちと違うな?王妃は何を言っている??)


 いまいち噛み合わない王妃との会話にリヨネッタは首を傾げた。

 その後、王妃は彼女に「タイム!タイムタイム!」と謎の言葉を叫び、ブツブツと「記憶が曖昧?」「わたくしが3作品までストーリーを変えたから影響が…?」「ニホンジンじゃあないの?」などとわけのわからない独り言を言った後に、リヨネッタに優しい微笑みを向けた。

「わたくしは何があってもあなたの味方よ。何かあればあなたのことを真っ先に信じる人間がここにいることを覚えていてちょうだい…?」
「う、うむ??わかった??」

(こやつ、もしやかつては魔族の部下の誰かなのか?最初の極悪笑顔は確かに妾の支配下たちに通じる邪悪なものであったが、…だれだえ??)

 何かが決定的に勘違いであり、すれ違いが起きていることはわかったが、自分に敵意が無いことがわかったリヨネッタは取り敢えず頷いておいた。

 リヨネッタは魔王で悪だから、使えるものは使うのだ。
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