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始まり

遭遇6

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助けを求めようと、顔を上げた。
「うっげ・・・。」
野球帽をかぶり、嫌そうに顔をしかめるのは、先日のトラブルを起こした野球部の少年、確か勇多(ゆうた)とか言った。
「うっげ…って。」
さすがに、昇華も傷つく。
「校門で抱き合って、担任に仲いいところ見せつけた挙句が、公開プレイか?つくづく、反吐が出る女だな。」
見下すように叩み込まれる。
「何ですって!?女子に反吐とか言うあんたがキモいわ!って言うか、そういう風にしか見られないあんたの目が腐っている!私とこいつは無関係よ!」
「彼氏なんだろ?今も、押し倒していたくせに。」
ゲテモノでも視るような眼を正面から怒りを込めて睨みつける。
「何でこいつが先生に言った冗談と校門の件をあんたが知っているのよ?付けてたわけ?このストーカー野郎。」
この間も、意味の解らない因縁をつけてきたのだ。
「友人の彼氏に手を出すだけじゃなく、外人まで手を出すのか尻軽女。」
まるで昇華の言葉を聞いていない。そこが、またイラつく。
「確かに・・・。」
今まで口を開かなかった変態が口を挟んできた。むくりと上半身が起き上がって、昇華と勇多を交互に視る。
二人も変態を見た。
「玄関から校門の俺たちを睨んでみたり・・・、先生?とのやり取りを下駄箱の影から覗いているなんてまともな男とは言えないよな?」
ニヤリっと確信犯ともとれる笑みを勇多に向けた。
その笑みに昇華は先ほどの行動が、勇多に見せるものだったのだと気付いた。
(でも、なんの為に?)
訝しがる昇華を余所に、変態は勇多に笑いかける。
「俺さぁ、男が女をなぶる姿見るの大っ嫌いなんだよね。ネチネチした男も嫌い。で、あんた最低。見てるの、不愉快だった!」
どうも勇多が気に食わないから、先ほどの行動に及んだらしい。
確かに、他人のイチャ付く様ほど、イラつくものも無いだろう。
(っていうか私のキウイミルク、そんな理由で飲まれたのか?)
やる瀬無さ全快だ。
(まぁ、あいつは実際嫌な気分に出来てたみたいだし、良いか。)
「な、なんだそれ…。おかしいんじゃないのかお前、そんなことの為にしょう…雨宮に抱きついたのかよ!?」
勇多は、信じられないとでも言いそうな顔で変態を見る。
そして、歯ぎしりをして昇華の腕を引いた。
「わ…何!?」
好きでも無い男に抱きよせられて喜ぶ人間はいない。
「離してよ!?」
ざわっと鳥肌が立ち、激しく気持ち悪くなって暴れた。変態のような輩より、勇多の方に鳥肌が立ったのだ。
「お前、こんな奴の近くにいた…。」
「離せやごら!!」
掴まれた腕を、相手に向け穿つ。ゆるんだ相手に向き直り返しの手で、わき腹を掬い落とす。
合気道の要領で、昇華は何か言いかけた勇多を投げた。
(ホント最近良い事無いな…)
助けようと、片足を立てかけた変態が、引きつった顔で地面に叩きつけられた勇多を見ていた。投げた手を下に振り切り、変態に向き直る昇華。
変態の顔に怯えが走った。
「体、異状ないのね…?だったら、ちょっと顔貸して?」
綺麗な笑顔に、変態は首を何度も縦に振った。

立ち去る二人の影を真っ黒い影が追いかけるように蠢き、昇華たちのあとを滑っていった。


愛しています
世界中のだれよりも
君が望むなら
世界を滅ぼしてもかまわなかったんだ
ルリ…




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