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2章

普通の護衛を希望する10

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「う、ん…」、
何か音がした気がして彼女は目を覚ました。薄暗がりの中で何かが、這いずり回る音がしている。
「な、何…!?」
飛び起きて目を凝らせば、明らかに四足歩行の何かが床を動き回っていた。しかし、ぼんやりとした暗がりの中でもそれの形はおかしい。
「光…!どこ…」
ソファからは人影が消えていた。
(嘘でしょ、本当に敵襲!?)
彼女は怯えながらとっさに、充電中の携帯のライトアプリを起動してそれを照らした。近くに立てかけていた定規があるか視認するのを忘れない。

「ひっ…」
ブリッジした人影が、光の中でその動きをとめる。そして、昇華の方を向いた。
「い、いや…!…うん…?…ちょっと!?何してんのよ、あんたは…」
見覚えのある服装、ブリッジしている人物の正体は光である。静かな寝息が静寂の中で響いていた。のけ反った顔は見えないが、寝ているようだ。一瞬身構えた昇華は脱力して、ため息を吐いた。
「どんな寝方してんのよ…紛らわしい、怖がって損したわ!!」
ぷりぷりと怒る彼女の元に光はブリッジのまま、どんどん四足歩行?で近づいてくる。
「うわ、ちょ、きもい、きもい…止まって、止まりなさいよ、来ないで!!」
ダカダカと音を鳴らして近づいてくるそれに、頬をひきつらせて昇華はベッドの端まで逃げた。定規を取り損ねてしまった。
「やだ、むり、なんなの…この変態!!こないでったらー!!」
ゴーンっとすさまじい音が響き、光は動きを停止させた。
「…こ、光?」
早る鼓動を抑え、昇華が恐る恐るベッドの下を見れば、ベッドの脚にぶつかって動きを停止していた。そのまま崩れ落ちて、静かに寝息をたて続けている。
「…寝てる…ったく、ほんっと、碌な体験じゃないわねー!!」
違う意味でドキドキしたお泊りだ。


「信じらんない!どんな寝相したら、ブリッジで這いまわるのよ!!」
このままでは風邪をひくだろうと、光の足を持ってソファ近くまで引きずった。
「持ち上げるのは無理よね…ちょっと、起きて!!ねえ、ねぇったら!起きてよ、風邪ひくのを見逃せないわ!ソファの上で寝てくれない!?」
さっきので起きなかったが、ダメもとで声をかけてみる。
「う、ん…ルリ姉ぇ…」
つかんでいた足が、ガシッと昇華の体に巻き付いてくる。
「きゃっ…」
そのまま引き倒されて光の腕の中に倒れこめば、抱き込まれた。影からは唸るような音が聞こえた気がするが、それどころではない。
「うわわわわわわ!!」
もがく昇華そっちのけで、むにゃむにゃとのんきに寝こける彼の寝息が彼女の頬を撫でる。抱きこんだまま頬ずりをされた。
「ひゃっ…!!」
実にドキドキしたお泊りである。


次の日の朝
光は不自然に曲がった体と首の痛みに目を覚ました。
「なんか、あちこち殴られて関節技を決められたみたいな激痛がする…」
呻き声をあげて起き上がる彼の視界では、ベッドの上でみのむしのように丸くなった彼女がいた。


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