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それぞれの心の進展

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 ジャンカルロとある意味甘い夜を過ごして以降の数週間、アシュティンと彼の夜は三日に一度のペースで続いていた。

(最近は少しずつだけど、ジャンカルロと距離が近づいている気がするわ。)

 今日、髪を結ってくれる侍女は久しぶりにエイブラムの侍女だ。もうエイブラムの侍女は片手で数えるしかいない。侍従と合わせても10人に満たないだろう。

(祖国の両親からの返事は相変わらず、あぶり出しを待ってほしい。としか報告書の返事に書かれていなかった。革命派の貴族が動いているのかしら。)

 数年前からフォールロックと争うようになって、一時的に共通の敵で国内は1つにまとまっていた。それが同盟を結ぶことによって落ち着き、平和になったからこそ再び祖国では内政争いが起きている可能性があった。

(国を守るために嫁いだのに、今度は国を脅かす材料になるなんて争いにキリはないのね…)

 久しぶりに落ち着いた色合いのドレスに、シンプルなお団子ヘアーになったアシュティンは、ジャンカルロの支持で王城内の舞踏会用の巨大ホールのある場所へと足を運んだ。

「王妃様、陛下からの指示について何か聞いていらっしゃいますか?」
「いいえ、できるだけシンプルな着替えやすい格好でくるようにとしか聞いていないの。」

 ここ数週間で親しくなった赤毛の侍女とポニーテールの侍女がそわそわしながら、アシュティンたちの後ろについてきた。何か知っているようだが、聞いてもはぐらかしている。

(何か起きるのかしら…?)

 不安になったアシュティンを待っていたのは、ホール全体を占めるようなドレスと装飾、複数の仕立て屋だった。

「お待ちしておりました!王妃様!!」
「え…?」

 入り口で立ち尽くす彼女を、支配人らしき人物たちが出迎えた。

「これはいったい何の催し物ですか?」
「陛下が王妃様のために国中の仕立て屋と世界各国の衣装を準備されました。どうぞゆっくりご覧ください。新しいドレスが好きなだけ決まるまで王妃教育は数日お休みしても大丈夫だそうです。」

 赤毛とポニーテールの侍女が嬉しそうに「陛下からのサプライズですよ!」とはしゃいで告げてきた。

(せ、世界各国??好きなだけドレスを買っていいとか…予算はいったいどこから出ているの?)

 開いた口が塞がらない状態のアシュティンを捕まえて、支配人と職人に着せ替え人形のようにあちこちへ連れまわされる。舞踏会場を丸々使っているので一つの町を回っているようだった。

(嫁いでから半年。王妃教育を休むのは初めてのことだけど…これは気晴らしに準備してくれたものなのかしら…?)

 困惑と喜色が入り交じり、現実味の無い空間にアシュティンは夢見心地で連れ回された。

 東の帝国の衣装に、皇国のドレス、各島国の真珠にサンゴ、桜貝の装飾まで数多くの品物が準備されていた。

「あ、ここはエイブラムのブースなのね。」

 色んな衣装の間を歩き、懐かしいブースで足を止めた。
 エイブラムでは、嫁いだ女性は貞淑に夫以外の人には触らせないことを証明するために、肩や胸元を出さず、裾の長いくるぶしまであるドレスが好まれる。また、髪を下ろすのは未婚の象徴であり、異性を誘う意味があるために、既婚者は高く結い上げる風習なのだ。そのため、ヘアーアクセサリーが有名なところが多い。

「エイブラム以外の国の衣装だと既婚者でも胸元が開いていたり、膝丈のドレス、何なら胸とお尻だけ隠したシースルーの衣装すらあったから落ち着かなかったのよね…」

 なんだかんだ着慣れた衣装をみると安心するようだ。深緑のレースのドレスを手に取って、試着用の小テントへ行こうとすると横から没収されてしまった。

「王妃様ったらまたこんな裾が長いドレスを着ようとして…陛下を誘惑するならもっと足をだされた方が良いんじゃない?」
「ぜ、ゼニスブルー…さん?」

 いつぞやの長身の女性が見下ろすように、彼女を見ている。

「せっかくいい足をしているのだから武器は使うべきよ?貴方の足の締まり方なら踊り子にも負けてないわ。」
「は?わわわ私が踊り子ですって??」

 ドレスを返してもらおうと背伸びをしても、軽くかわされてしまう。助けを求めて辺りを見渡せば、タイミングが悪いのかだれも周囲にいない。

「こーんな衣装だらけでどんな危険が混ざっているかわからない空間でよく安心して…いえ、こんな地味なドレスが選べたものね?いらっしゃいな、衣装エキスパートのゼニスが選んで差し上げてよ。」
「け、結構ですわ。侍女たちと合流しますから離して…!」

 力強いのか抵抗しても小柄なアシュティンはぐいぐいと引きずられていく。ゼニスは仕立て屋界で有名なのか、支配人たちが頭を下げて道を譲っていた。

(どうしてこんな時に知ってる侍女がどこにもいないの??)

 抵抗むなしくゼニスに衣装選びをされ、小テントに押し込まれたアシュティンは職人に採寸を受けながら半泣きになった。

 しかし、ゼニスが選んだ深緑のドレスを着て鏡の前に立った時に感嘆がもれた。
 何重にもなったスカートは中の生地が膝上しかなかったが、深緑で柔らかい生地だった。その上に順に色が薄くなるように半透明の緑の生地が膝下まで重なっていく。一番上に白に近いレースがくるぶしまである。動きやすく、デザインは華やかで可愛らしい。

(足が薄っすら見えているけど、このくらいなら恥ずかしくない…悪くないかも)

 アシュティンの好みの色で選んでくれる辺り、ゼニスはセンスをただ押し付けてくるわけではないようだ。

「あら、やっぱり似合うわね。じゃあ、このドレスとこの装飾と…」
「ちょっと待ってください。こんなに着れないわ!!」

 流石に山盛りになった小テントの外の衣装に彼女は逃げ出したくなった。

「接近を禁止されたと聞きましたが、どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
「妃宮の話でしょう?ここは妃宮じゃなくて王城だからよ」

 当たり前のことを聞くなと言わんばかりの冷たい態度で次のドレスを差し出され、渋々と小テントに入る。今度は紺碧色のスレンダーラインドレスだった。

(何故私が素直に言うことを聞かないといけないのかしら…)

 ムッとして職人に仕立てを受けるも、こちらもやはり着心地よくアシュティンの細身の体をより綺麗にみせるドレスに文句がしぼんでいく。

 たまに小テントの外から何やら金属がぶつかる音が響いては消えるも、アクセサリーの音にかき消されて彼女には届かない。

「ねぇ、あんたと陛下が夜を過ごすようになったってホント?最近、全然うちの店に顔を出さなくなったのよね。」

 時間にしてほんの一時間半ほど経った頃だろうか、大分疲れてきたアシュティンの着替えの合間にゼニスブルーが顔をのぞかせた。

「確かにジャ、陛下とは夜一緒に過ごすようになりましたが…」
「何回もしつこいでしょ、あのお方。辛くなったら変わってあげるわ。」
「…っ、違います!ゲーム!ボードゲームを一緒にしてるんです!!」

 相手がどこからきている人間か思い出して、真っ赤になって否定した。

「だからそう言って…ふうん、そういうこと?まだなんだ?王妃様はまだ未成年だものね。陛下ったらお可愛いこと…」
「っく、笑わないでください!」

 ゼニスブルーは押し殺したように嫌な笑いをした。気にしていることを指摘されカッとなった時に、にわかに会場が騒がしくなった。

「アシュティン無事か!?どこにいる??」


 ジャンカルロが呼ぶ声が会場に響く。

「ここです。どうされましたか?」

 はぐれた侍女たちと共にジャンカルロはアシュティンの元へと駆け寄ってきた。安心したように合流と同時に息をなでおろしている。

「間に合ったか、よかった。…いや、何でもないんだ。」
「間に合ってないですよ!今までゼニスブルーさんの着せ替え人形だったんですから!!」

 大分イライラが募る彼女は、ゼニスブルーのいた方を見るがもういなかった。

「青の君が来ていたのか?そうか、それなら安心だな。」

 アシュティンの抗議を聞いても、逆に気の抜けた笑いを浮かべたジャンカルロに更に心がささくれ立つ。

「随分と親しいようですね。私なんかではなく彼女にドレスを贈ったらいいのではありませんか?」
「なぜ彼女に贈る必要があるんだ?俺は君の為にここまで準備したんだぞ。」
「頼んでません。そもそも何故今更になってこんなにドレスを準備したんですか?」

 本当は気晴らしに準備してくれたのか、気遣いが嬉しい。と言ったことを伝えたかったのに、彼女はとげのある言い方をしてしまった。

「気に入らなかったか?この間、カルチャーショックを受けていたと聞いたから世界各国のドレスを選べばそこまで文化の違いに悩まないかと思ったんだが…ほ、ほら青の君にドレスを裂かれただろう?その分も好きに買うと言い!」
「予算…このお金はどこからきているのですか?民の税で贅沢をするわけにはいきません。」

 焦って戸惑う王に、更に追い打ちをかけてしまった。自分でも口を止めたいのに、何かたまっていたものがでるように止まらない。

「これは王妃用の国家予算だ。問題ない。これまで嫁いでから半年間、新しい衣装を買っていなかっただろう?ここで色々と新調しておけばいいじゃないか。」
「王妃用に国家予算を回しているのですか?そこまで私なんかにする必要はないので、国民に回してください。」

 ジャンカルロもムッとした顔になってきた。

「上が豊かでないと国民は不安になるだろう?」
「上も国民と共に慎みを持って行動すれば、支持率があがるものでしょう?」
「エイブラムではそうかもしれないが、この国では王族をモチーフにすることが多い。‟貴族の流行は王族から“という諺がこの国にはあるくらいだ。俺たちは貧しくても豊かの象徴でなければならないんだ。」

 2人の間に険悪な雰囲気が流れ、周囲の人間はハラハラと見守っている。

「だからと言ってわざわざ節税が必要なこの時期にここまでして頂く必要を感じません。その分を貧民街の整備に回して頂きたいです。」
「貧民街への予算は別に準備している。そもそもの予算は俺が個人運営している事業の黒字分から分けてコツコツ貯めてきたものだ。ほとんど税金じゃない。」
「え…?そんな、それなら尚更…」

 ここでやっとアシュティンは歯止めがきいた。
 言い過ぎてしまった、八つ当たりも入ってしまったと青ざめる。だが、ジャンカルロはそのまま言葉を続けた。

「この国は忠誠心が高い者が多い分、リーダーシップを求め、上に従って動く国民が多い。共感性の高く、その都度で協力してきたエイブラム国民とは性質が異なってくるんだ。上らしいふるまいこそがここでは求められる。実際にアシュ、…王妃との壮大な結婚式の後に国民が戻ってきている。」

 フォールロックとエイブラムは違う。それを改めて突きつけられ、アシュティンは言葉を失った。

「…すみません。言葉が過ぎました…」
「いや、こちらこそすまない。熱くなってしまった。」

 2人の喧嘩が終息しそうな雰囲気に周囲は胸をなでおろした。
 気まずくなった彼女にジャンカルロは言葉を更に重ねる。

「どうか“私なんか”なんて言わないでくれ。君は俺の王妃で、この国で最も大切にしたい女性なんだ。」
「そ、それは…。…わかりました。気をつけます。」

 アシュティンはエイブラムで受けてきた仕打ちから、無意識に言っていた自己への卑下の言葉にここで気が付いた。

(私は本当に未成年こどもだわ。ちゃんと理解できていなかった…。感情に振り回されて王と喧嘩してしまった。王は私のことを受け入れてくれているのに…)


 ついに沈黙した王妃に同情の視線が集まり、王へ批判の視線が刺さった。

「き、機嫌直しに昼食を一緒にとらないか?ランチを一緒にとったことないだろう?会場のドレス配置に不備があったらしいから一旦移動しよう!」
「はい…」

 落ち込んだ彼女を連れて、ギクシャクした動きでジャンカルロは王城の自室へと向かった。初めて入る部屋にアシュティンが硬直するのを感じながら、手を引いてソファーへと誘導する。

「すまない。さっきは強く言い過ぎた。責めたくて言ったわけでないんだ。」
「いえ、こちらこそ余計なことを言いました。すみません」

 もう一度謝罪を双方で繰り返し、沈黙が流れる。切り口が解らずもごもごと2人で戸惑っている間に、給仕の人間が急いで継ぎの軽食を運び、ランチ到着の時間を告げた。

「良ければ午後の時間に一緒に衣装を選んでいただけませんか?せっかく私のために準備してくださったのですから、揃いの衣装合わせなどしたいです。」
「わかった、時間を作ろう。存分に選んでくれ」

 スコーンを彼女の前に山積みにしようする夫を制止しつつ、勇気を出して歩み寄ろうとするアシュティン。スコーンは阻止されたが、彼女の希望をジャンカルロは快諾した。



 午後は舞踏会場丸々使うのではなく、空き部屋をいくつか使ってそれぞれドレスの特徴で統一された衣装部屋を回る流れだった。ジャンカルロと話し合いながら、国の季節のイベントに必要な衣装と日常で使うものを選ぶ時間はアシュティンにとって楽しい時間となった。

「同じ国内でも言葉が意味の違う言葉になることがあるのですね。」
「一つの単語が複数の言葉を指すのは、珍しいかもしれないな。俗語スラングはエイブラムでは聞かなかったのか?」
「市民街や貧民街にいけば聞けましたが、フォールロックほど多くなかったかもしれないですね。」

(新しい言葉を覚えるのは楽しいけれど、言葉の翻訳違いで誤解しているものあるかもしれないわ。妃教育の先生にまた聞いてみましょう)

 並んで夫と装飾品を選ぶ中で、アシュティンに新たな発見もあった。色んな仕立て屋と話す中で、なまりや喋りに癖のある人間とも会話していき、新しいフォールロック語をいくつも覚えたのだ。

「あちらの店では“耳飾り”を指す言葉が、こちらの店では“眼鏡”の意味に変わるなんて不思議です。エイブラムで習ったフォールロック語にも翻訳違いがありましたし、まだまだ勉強が必要なようですわ。」
「そなたは勤勉にやってくれていると思う。今ぐらいは気を抜いてほしいが、真面目なところが良いところなのだろうな。」
「まぁ、ふふふ。」

 午前中の喧嘩の時と比べ、穏やかに談笑する二人に仕立て屋や侍女たちは安堵を浮かべた。


 一日中共に過ごしてそのまま夕食を迎えた二人は、アシュティンの部屋では再びカードゲームを始めていた。

(今日はジャンカルロとずっと一緒ね。凄く濃い一日だったけど、とても楽しかった…)

 一日を振り返って気を緩めている彼女は、容赦を受けずにジョーカーをひいて敗北した。そんな彼女を見つめ、ジャンカルロは何か伺うようにカードを回収していく。

(思えば嫁いでからジャンカルロには色々良くして貰っているわ。私から何か返せないかしら…ゲームで賭け事に持ち込んで、彼が勝ったら願いをきくとか?それなら失敗しないわよね…)

「ねぇ、ジャンカルロ。私やってみたいことがあるのだけど…」
「なんだ、どのゲームをしたいんだ?」
「私と賭け事をしてくれませんか?勝った方が言うことを聞くというのはどうでしょう。」
「ほう、自信があるんだな?」

 ニヤリと笑う彼に少し冷や汗をかきながら、頷いて次のゲーム内容を指定した。彼から待ってましたといった気配がして、謎の焦りを受ける。


「う、嘘。私がこんなに勝てるわけがない…」
「三回勝負だったな?貴方の圧勝だ。さぁ、願いを聞こうか。」
「ま、待って下さい!こんなに私が勝つなんておかしいです!もう一回、いえ、五回勝負にしてください!!」
「いいだろう。」

 結果は勿論、アシュティンの5勝だ。ニヤニヤしたジャンカルロが返事を待っている。

「そんな…私はジャンカルロの欲しいものが知りたかったんです。ここに嫁いでからずっとよくしてもらっているので、何か返せたらと考えておりまして…こんなつもりじゃ無かったのに…」

 観念して本音を吐き出した。驚いた様子の彼は、彼女の言葉を最初のみこめなかったようだ。カードを置いて思案している。

「俺の、ほしいもの…?貴方の欲しいものではなく??」
「今までゲームではほぼ惨敗だったので、今回も賭け事で負ければ何か聞けると思いまして…」
「そうか、うむ…うーむ…」

 いたたまれなくなってトランプカードを片付けようとするアシュティンの手を夫が止めた。

「ここに嫁いで苦労させているだろうから願いを聞きたかったんだが…。俺のほしいものが願いなら、1つ頼みたいものがある。」
「何でしょう?!」
「貴方の国の歌を貴女の声で聞かせてくれないか?」
「歌…ですか。」

 実はアシュティンの歌声は天上の声と言われるほど綺麗なものだ。それは幼馴染の騎士と一部の人間しかしらない秘密のはずだった。当然フォールロックの彼が知るはずはない。

(良かった。それなら叶えられる!)

「勿論、構いません。私はエイブラムでセイレーンと呼ばれる歌声ですよ!」
「それは良いな。ぜひ聞かせてくれ。」

 少しだけ誇張して胸を張れば、嬉しそうな夫の顔が視界に入る。声量を意識しながら、彼女は好きな歌を口ずさんだ。

「いかがでしょう。」
「良い声だな。金糸雀の歌声のようだ。他にも聞かせてくれるか?」
「もちろんです。」

一曲終われば、もう一曲。

(もう一度、私の声を聴いてくれる人ができた。夫になった人は、喧嘩ができて仲直りできる人だった。気になることもあるけれど、この人を、ジャンカルロを信じてみよう…)

 大げさなほどの称賛を彼から受けて、アシュティンは声が枯れるまで歌った。祖国の歌を歌っても、彼女にもうホームシックは訪れない。




ジャンカルロ視点

 歌い疲れた王妃に見送られ、妃宮を後にする。向かうのは、昼間に使われた舞踏会場だ。
 すでに側近たちが待機している。

「商人の中に紛れ込んでいた間者は全員捕まえたか?」
「ぬかりはありません。今回は“原色”の方々が動いてくださったので、大事にはなりませんでした。」
「まさか侍女たちを誘導して一人ずつ昏倒させ、アシュティン一人にする手段に出てくるとは思わなかったな。」
「仕留め損ねられた侍女が報告に走ってくださらなければ、危ないところでしたね。」

 ギレルモから資料を受け取り、今後の対策の指示を出す。

「あぶり出し目的ではなかったんだが、いい結果になったな。」
「王妃様をおとりにする形になってしまい、申し訳ないです。」
「俺も考えが浅はかだった。今後、商人を引き入れる時の参考にしよう。」

 捕縛された人間は、エイブラムの人間とフォールロックの人間、それから隣国の皇国の人間だった。詳しい話は、地下の取調室できくことになるだろう。

「そろそろ地下の牢獄がいっぱいになりそうだ。どこか空けないといけないかもしれないな。いっそ尋問が終わった奴らから、処分するか。」
「でしたら、開拓地送りにします?労働が足りてませんし」
「じゃあ、王妃との結婚式の日に花嫁ドレスやら会場を壊そうとした奴らを、まずは喉を潰してからやってくれ。」
「御意。」

 当時は同盟直後に、何故わざわざこんなことをするのか首を傾げた。「第一王女を幸せにしたくない。妹姫がかわいそうだった。」などとわけのわからないことを言っていた口を割らない輩だったが、首謀者が割れればなんのことはない。革命派のエイブラムの貴族と戦争派のフォールロックの貴族が手を組んでいた。

(幼稚な嫌がせのものから、命に関わるものまでアシュティンを執拗に狙うのをやめさせたいものだ…)

 ため息をついて先ほどの彼女とのやり取りを思い出す。

(どうにも彼女は放っておけないし、今も気になってしょうがない。アシュティンの声をまた聴きたい。この間は彼女との恋を考えると言ったが、こうして別れてすぐに会いたくなるのは恋と言えるかもしれないな。)

「陛下?どうされました?」
「…俺はもしかしたらアシュティンが好きかもしれない。」
「異性としてですか?昼間に喧嘩したばかりじゃありませんか。」

 ちょっと呆れた顔のギレルモがモノクルを掛けなおした。不貞腐れたようにジャンカルロは言い返す。

「…仲直りしたから問題ない。」
「この半年間放置していたのに、大丈夫ですか。もっと仕事にかまけずに交流すべきだったのでは…?」
「これから交流するから問題ない!!」
「仲がいいのは良い事ですが、どうにも陛下の初恋となると…自分は心配ですねぇ…アプローチちゃんとできます?誤解されて泣きを見るのでは?」

 したり顔で話す側近をはっ倒し、今日も王は王妃を狙う輩を処分する仕事をすすめるのだった。


この日、二人の心境は大きく変化した。


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