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12・鬼畜親父、地獄に堕ちろ
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翌朝の目覚めは最悪でした。
「ティラミスお嬢様、ぜひ私めにも分かるようにご説明を」
寝台の上で目を開けてみると、眼前に迫っていたのはグレイッシュブルーの髪の青年のどアップ。縁の薄い眼鏡のレンズがキラリと光ります。
「サバカン、おはよう。どうしたの?」
「私は煮込んだ魚の保存食ではありません。サーバンです!」
私からすると、そんなのどちらでも良いことです。視線を泳がせてカプチーノの姿を探しましたが見当たりません。私は寝返りをうって起き上がろうとしました。右横にはカカオお兄様、その向こう側にはココアがすやすやと寝息を立てています。実は三人姉妹だったことが判明しましたので、私達はココアの提案で同衾していたのです。カカオお兄様のお隣はムラムラしすぎてしまい大変寝つきが悪かったのですが、ようやく夢の世界へ旅立つことができましたのに。朝早くから何なのでしょう。
「ココアお嬢様ばかりか、ティラミスお嬢様までカカオ様と同じベッドにいらっしゃるとは、どういったご了見ですか? 不純異性交友は断固阻止させていただきます!」
サバカンはココア付きの執事です。以前はココアにもちゃんと侍女がついていたのですが、採用する端からココアの変態っぷりに音を上げて退職してしまう始末。仕方なく、現在は殿方が彼女の担当をしているというわけですね。今朝も燕尾服をビシッと着こなしています。
「あら。サバカンは、まだ昨夜のことを知らないのかしら?」
「いいえ。昨夜にございますか?」
ちなみに彼の欠点は、夜八時就寝、朝は六時起床という子どものような生活しかできないこと。眠っている間は揺り動かしても、逆さに吊るしても起きない強者ですので、昨夜屋敷が振動したことなども全く気付いていないのでしょう。それでは親切なティラミス様が教えてさしあげましょうか。
「えぇ。実はお兄様はお姉様で、あのラメーン様と結ばれましたの。そこで、今日から私が次期当主になるべくお仕事に励むことになりましたわ」
少し話を端折りすぎたかもしれませんわね。でも、間違ったことは申しておりません。
「次期当主?! こんなボンクラが……おっと失礼いたしました。こんな頭が空っぽそうなお嬢様が、そのようなお役目を負われることになるとは、世も末ですね」
言い直した割には相変わらず酷い物の言いようです。
「しかし、それで納得はいたしました。ご当主様がお呼びです。カプチーノを連れて参りますので、急いでお仕度の程を」
サバカンは、ボウアンドスクレイプ、つまり貴族社会でお馴染みのお辞儀を流れるような動きでこなすと、音も立てずに部屋を出ていきました。これだけで見ると完璧な執事ですのに、本当に残念です。
結局三時間しか睡眠をとっていない私は、なんとか欠伸を噛み殺しつつお父様のお部屋へ急ぎます。お父様はどうやら徹夜だったらしく、目の下にはどこかの民族の伝統的な化粧のようにくっきりとした隈取りが入っていて、いつもにも増して怖いお顔をしていらっしゃいました。
「お父様、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
お父様は珈琲のカップを乱暴に机の上へ戻しました。
「早速だが、ティラミスには今日領地へ発ってもらう」
「今日ですか? さすがに急すぎます。領地は遠いのですから、友達と別れを惜しんだり、新しいドレスを新調したり、領地へのお土産を手配する時間も必要ですわ」
「必要ない。お前は昨日、カカオのために三つの条件を飲むと言ったな?」
「はい」
「その際、私にもっと詳細な条件について確認すべきだったのだ。それを怠ったお前には、私の言う通りに動いてもらう」
「そんなぁ……」
あの時は、お兄様の今後という漠然としたものしか考えられていなかったのです。いつもならば、すっかり眠りに落ちている深夜。頭が完全に回っておりませんでした。お父様が割と簡単に「分かった」とおっしゃった裏をもっとよく考えるべきだったのです。
「私は、怒っている」
「はい。存じております」
「今から、持っている中で一番質素なドレスに着替えなさい。手で持てる範囲ならば、屋敷から物を持ち出すのは許そう。そして午後には出発するのだ!」
今は朝の八時。ほとんど時間がありません。
私は、頭の中でこの国の地図を広げました。パーフェ家が所有するパーフェ領と呼ばれる土地は、王都があるここから南西へ馬車で五日の場所にあります。これまで二度程出向いたことはありますが、最後に行ったのは今から五年前。道中、たくさんの危険な森を通り抜けることになりますから、何度も肝を冷やしたのを覚えています。
「お父様、馬車は頑丈なものを所望します。そして、護衛をつけてくださいませ。私一人では、魔物に対抗する力がありませんので」
「馬車? そんなのもは用意していない。移動手段は自力で何とかしろ。まぁ、徒歩ぐらいしか手は無いだろうがな」
薄ら笑いを浮かべるお父様。今回はやけに説教の時間が短かったと思っていたのです。こう来ましたか! 確かに、こんな鬼畜親父の顔なんてしばらく見たくはありません。望むところです。勝手に出て行かせていただきますからね!
「ティラミスお嬢様、ぜひ私めにも分かるようにご説明を」
寝台の上で目を開けてみると、眼前に迫っていたのはグレイッシュブルーの髪の青年のどアップ。縁の薄い眼鏡のレンズがキラリと光ります。
「サバカン、おはよう。どうしたの?」
「私は煮込んだ魚の保存食ではありません。サーバンです!」
私からすると、そんなのどちらでも良いことです。視線を泳がせてカプチーノの姿を探しましたが見当たりません。私は寝返りをうって起き上がろうとしました。右横にはカカオお兄様、その向こう側にはココアがすやすやと寝息を立てています。実は三人姉妹だったことが判明しましたので、私達はココアの提案で同衾していたのです。カカオお兄様のお隣はムラムラしすぎてしまい大変寝つきが悪かったのですが、ようやく夢の世界へ旅立つことができましたのに。朝早くから何なのでしょう。
「ココアお嬢様ばかりか、ティラミスお嬢様までカカオ様と同じベッドにいらっしゃるとは、どういったご了見ですか? 不純異性交友は断固阻止させていただきます!」
サバカンはココア付きの執事です。以前はココアにもちゃんと侍女がついていたのですが、採用する端からココアの変態っぷりに音を上げて退職してしまう始末。仕方なく、現在は殿方が彼女の担当をしているというわけですね。今朝も燕尾服をビシッと着こなしています。
「あら。サバカンは、まだ昨夜のことを知らないのかしら?」
「いいえ。昨夜にございますか?」
ちなみに彼の欠点は、夜八時就寝、朝は六時起床という子どものような生活しかできないこと。眠っている間は揺り動かしても、逆さに吊るしても起きない強者ですので、昨夜屋敷が振動したことなども全く気付いていないのでしょう。それでは親切なティラミス様が教えてさしあげましょうか。
「えぇ。実はお兄様はお姉様で、あのラメーン様と結ばれましたの。そこで、今日から私が次期当主になるべくお仕事に励むことになりましたわ」
少し話を端折りすぎたかもしれませんわね。でも、間違ったことは申しておりません。
「次期当主?! こんなボンクラが……おっと失礼いたしました。こんな頭が空っぽそうなお嬢様が、そのようなお役目を負われることになるとは、世も末ですね」
言い直した割には相変わらず酷い物の言いようです。
「しかし、それで納得はいたしました。ご当主様がお呼びです。カプチーノを連れて参りますので、急いでお仕度の程を」
サバカンは、ボウアンドスクレイプ、つまり貴族社会でお馴染みのお辞儀を流れるような動きでこなすと、音も立てずに部屋を出ていきました。これだけで見ると完璧な執事ですのに、本当に残念です。
結局三時間しか睡眠をとっていない私は、なんとか欠伸を噛み殺しつつお父様のお部屋へ急ぎます。お父様はどうやら徹夜だったらしく、目の下にはどこかの民族の伝統的な化粧のようにくっきりとした隈取りが入っていて、いつもにも増して怖いお顔をしていらっしゃいました。
「お父様、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
お父様は珈琲のカップを乱暴に机の上へ戻しました。
「早速だが、ティラミスには今日領地へ発ってもらう」
「今日ですか? さすがに急すぎます。領地は遠いのですから、友達と別れを惜しんだり、新しいドレスを新調したり、領地へのお土産を手配する時間も必要ですわ」
「必要ない。お前は昨日、カカオのために三つの条件を飲むと言ったな?」
「はい」
「その際、私にもっと詳細な条件について確認すべきだったのだ。それを怠ったお前には、私の言う通りに動いてもらう」
「そんなぁ……」
あの時は、お兄様の今後という漠然としたものしか考えられていなかったのです。いつもならば、すっかり眠りに落ちている深夜。頭が完全に回っておりませんでした。お父様が割と簡単に「分かった」とおっしゃった裏をもっとよく考えるべきだったのです。
「私は、怒っている」
「はい。存じております」
「今から、持っている中で一番質素なドレスに着替えなさい。手で持てる範囲ならば、屋敷から物を持ち出すのは許そう。そして午後には出発するのだ!」
今は朝の八時。ほとんど時間がありません。
私は、頭の中でこの国の地図を広げました。パーフェ家が所有するパーフェ領と呼ばれる土地は、王都があるここから南西へ馬車で五日の場所にあります。これまで二度程出向いたことはありますが、最後に行ったのは今から五年前。道中、たくさんの危険な森を通り抜けることになりますから、何度も肝を冷やしたのを覚えています。
「お父様、馬車は頑丈なものを所望します。そして、護衛をつけてくださいませ。私一人では、魔物に対抗する力がありませんので」
「馬車? そんなのもは用意していない。移動手段は自力で何とかしろ。まぁ、徒歩ぐらいしか手は無いだろうがな」
薄ら笑いを浮かべるお父様。今回はやけに説教の時間が短かったと思っていたのです。こう来ましたか! 確かに、こんな鬼畜親父の顔なんてしばらく見たくはありません。望むところです。勝手に出て行かせていただきますからね!
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