お兄様のためならば、手段を選んでいられません!

山下真響

文字の大きさ
37 / 45

33・くださいませ!

しおりを挟む
このまま地面が抜け落ちたらどういたしましょう?!私は真っ青になって後ずさりしましたが、地震のような振動はすぐに収まり、看板が上にのし上がってきたかと思うとその下に巨大な石筒が現れました。正面には金属の扉らしきものがついていて、頑丈な錠もかけられています。

「何か出てくるかもしれない!」

ジビエが私を守るようにして前へ出ると、扉の前に立ちはだかります。ほぼ全員が息を飲んで、次に起こることを待ち構え始めた三秒後。

「おぉ、よく来た、よく来た。待っておったぞ!」

声がした方を振り向くと、森の奥の方から小柄な人が歩いてきたではありませんか。古の時代の伝説や絵本の世界に出てくる『獣人』のように、頭から手足に至るまで全身毛むくじゃらです。なのに、王都の貴族邸に出入りする商人が仕立てたかのような上質な服を纏っていました。何なの、このアンバランス感!

「もしかして、貴方様がレバニラ様でいらっしゃいますか?」
「いかにも。メレンゲ姫から石板で連絡があった故、まだかまだかと待っておったのだ。ん?それにしても大所帯で来たものだな。なんだ、ソーバのガキまでいるじゃないか」

ソーバをガキ扱いするなんて。私の中で、理由も無くレバニラ様をきちんと大物扱いすることが決定いたしました。ソーバは、フンッと鼻を鳴らして不貞腐れています。どうやら、かなり馴染みがあるらしいですね。

「それにしても、皆顔色が悪い。どうれ、新薬の被験者にでもなってもらおうかの」
「って、ちょっと待て!」

ようやく突っ飲みが入りました。ポークさんです。

「レバニラさんだったか?僕達は看板の通りに六つの穴にチャレンジしたんだ。なのに、なぜどの穴にもあなたは居なかったんだ?!」

その通りです。私なんて、賢者とは地中で生活する多足動物かもしれないと想像していました。もし、日光が苦手だとか言い出しても、決して指を差して笑わないようにしなければ!と心に決めておりましたのに。

「運のある者は会えると書いておっただろうに。そして、あの穴の中に私がいるとは一切書いていない。最近の若者はますます頭が悪くなっているようだな」

レバニラ様は怒りのあまり言葉も出せずに震えている『ジューシー』を気にもせず、ひとしきり高笑い。あまりにも笑いが長いので、バベキュ様が咳払いするとようやく我に返ったようでした。

「話があるのだろう?私からも話があるのだ。ついて来い」







歩いたのは十五分ぐらいでしたでしょうか?か弱い箱入り令嬢である私には少々長い距離でしたので、途中で空飛ぶ絨毯号に乗ろうか乗るまいか迷いつつ、何とかレバニラ様の住処に到着することができました。

そうですね。これは屋敷ではなく、住処(すみか)なのです。
何しろ、天然記念物ばりに巨大な一枚岩の下方に頑丈な金属扉が取り付けられているというもの。外見の雰囲気は砦や蛮族の塒(ねぐら)に近いものがあります。

入ると、中は普通の建物になっておりました。よくある貴族の屋敷のように上階まで吹き抜けの広いエントランスホールがあり、天井は王都にある神殿のように半球状になっていて、腕の良い職人による業と思われる細かな装飾がびっしりと刻まれています。ただ、床は絨毯ではなく石なので、歩くとコツコツと音が響きました。窓がない分少し薄暗く、あらゆるところに燭台やカンテラがあるようです。

私達は二階にあったとても広い部屋に通されました。私の仲間達は総勢十三名。これだけの人数が入っても、まだまだ余裕がある程にだだっ広いのです。部屋の中には円筒形の立派な柱が何箇所にもありますから、元は複数の部屋だったのをぶち抜いているのかもしれませんね。

「まぁ、掛けてくれ。と言いたいところだが、客なんて日頃来ないものだから椅子なんて無くてな。だが、ちょうど良さそうなものはたくさんあるだろう?適当に座ってくれ。でも、潰すなよ」

私はキョロキョロ見渡して、椅子代わりになりそうなものを探しました。家の中にも関わらず、ここには植物が乱雑に床から生えていて、その隙間を縫うように岩や木箱、埃の積もった本、妙な形の金属片などが散らばり、要するに汚いのです。

「ティラミス様、どうぞこちらに!」

見るとカプチーノが手招きしていました。椅子ぐらいの高さの岩を見つけて、その上に大きなハンカチを敷いてくれています。珍しく侍女らしい仕事をされると調子が狂いますね。

「ありがとう」

そう言って座ると、部屋の最奥にあった執務机と思われる所にレバニラ様が登っているのが見えました。なんてお行儀が悪いのでしょう!

レバニラ様は机の上のガラクタを押しのけてスペースを作ると、そこにスクっと立ち上がります。

「ようこそ、エビチリ遺跡へ!ここは古代魔法が眠るからくり屋敷であり、今は私の住処である。まずは用向きを聞こうかな?ティラミス嬢」

名前を呼ばれた途端、急に背筋が伸びました。それ程に、レバニラ様の声には凄みがあったのです。私はカプチーノが用意した椅子代わりの岩から腰を上げました。

「まずは改めまして……お初にお目にかかります。私はパーフェ家当主ガトー・フォン・パーフェの娘でティラミスと申します。この度は急な訪(おとな)いにも関わらず過分なお出迎えをありがとう存じます」

ちょっぴり嫌味を言ってしまいました。

「私ティラミスは、将来パーフェ家を継ぐ当主の候補となりました。当初は長子であるカカオが継ぐ予定でしたが事情がございまして……。そこで、私は父に当主としての器を見せつける必要が出てまいりました」
「だいたいの話はメレンゲの姫から聞いている」
「左様でございますか。では単刀直入にお願い申し上げます」

私は、ぐっと握った拳に力を入れました。いつもならば、低身低頭で依頼するところ。でも今の私は当主の卵としてここに立っているのです。堂々と胸を張って、決して隙を見せることがあってはなりません。例え、相手が毛むくじゃらの大物だとしても!

「レバニラ様。古の魔法を復活させる研究の成果、全てこの私にくださいませ!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...