光の巫女

雪桃

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第2章 リースへ

簡単薬草集め

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 数分後。
 千花は景色が全く変わらない森に段々不安を抱き始めた。

「あの、道間違ってませんか」
「お前じゃないんだから間違うわけねえだろ」

 千花の小さな不安にシモンは揶揄からかうように返答した。
 2人の様子を見て邦彦は足を進めながら口を開く。

「田上さんの心配もごもっともです。入り組んだ森の中ではどこも同じように見えますから。でも大丈夫ですよ。しっかり進んでいます」

 邦彦の言葉に珍しく安心できる。
 いつもは胡散臭く感じていたというのにだ。

(一度貶された後に安心させられると信頼できるって本当なんだなあ)

 千花は若干DV被害者にありがちな感情を抱きながら改めて森を見渡す。
 故郷にも森と呼ばれる場所はあったが、それでも整備はされていて小学生の頃に社会科見学で行ったくらいだ。
 一方で目の前にある森は一切舗装されていない本当に無整備な森だ。
 自然豊かと言えば聞こえはいいだろうが、正直完全に日が出ていないこの時間帯は不気味だ。

(野生の動物がひょっこり顔を出してきたり。それだけならまだしも襲いかかってこられたら私逃げることしかできないや)

 一応シモンに失礼な態度をとっている自覚がある千花は助けてもらおうとは思っていない。
 いざとなったら体力で乗り切ろうとも考えている。
 その努力が後に無駄になることも知らずに。

「田上さん、そろそろ着きますよ」
「どこに?」

 邦彦の言葉に千花は首を傾げる。
 しかし返答が来る前に視界が開けた。

「ここが薬草の生息地です」
「すごい」

 千花の目に入ったものは地面いっぱいに広がる草原だった。
 正確にはヨモギによく似たギザギザしている形の背の低い薬草畑だ。

「さて、摘みましょうか。これ全てが取っていいものではないので覚えてください」
「全部同じに見えますけど」

 千花がその場に座り込みながら薬草を眺める。
 中には可愛らしい小さな白い花が咲いているものもある。
 邦彦は千花の隣に同じように膝をつきながら説明する。

「この白い花がついているものは取らないでください。猛獣も殺す毒が入ってますから」
「こんなに可愛いのに?」
「綺麗なバラには棘があると言うでしょう。同じ原理です」

 邦彦の説明を聞きながら千花は教えてもらった通り、何もついていないただの薬草を根元から摘んでカゴに入れていく。
 よく見たら薬草よりも白い花が咲いている確率が高い。

「15本摘んだら戻ってきてくださいね」

 手伝ってはくれないのかと言いそうになったが、そもそもこの依頼は千花の授業の1つなのだ。
 手伝ってもらっては訓練にならない。

(早く見つけて褒めてもらおう)

 千花は比較的奥の方に薬草を見つけ、そちらへ走っていく。
 草が生い茂っているので踏まないように注意するのが大変だ。

「クニヒコ。まさか俺に眺めるだけで終わらせるなんてことないよな」

 今までただついてきただけのシモンが苦言をていする。
 邦彦は「まさか」と含みのある笑いを返す。

「もちろん簡単な任務ですが、ここは魔物が通る道でもあります。僕も戦闘はできますがここはやはり魔法で戦った方が彼女のためにもなるかと」
「その魔物も出てくるかわからねえがな」
「念には念をです。あなたもそれを知ってついてきたでしょう。口調とは裏腹に面倒見がいいんですから」

 邦彦は久々に嫌味を含んだ笑みを浮かべながらシモンに目を配る。
 シモンは上手く利用されていることに不機嫌な表情を向けながらも諦めたように1つ溜息を吐いた。

「お前のそのギャップにどれだけ巫女候補が騙されてきたか」
「田上さんは最初から僕に好印象は向けなかったようですよ」
「あいつ能天気そうな顔してんのに?」
「そうですね。確かに普段は普通の女の子です。でも」

 邦彦は何かを思い出すように少し黙ってから口を開く。

「彼女は、恐らく今までの候補者とは違います」
「何が?」

 シモンの問いにクニヒコは微笑んだ。

「何もかもが、です」

 邦彦の言葉の意図がシモンには全くわからなかった。
 千花は1本1本かき分けながら薬草を探していく。
 遠くから見れば圧巻だが、近くで見ると茎が絡まっていたり、薬草だと思えば死角に小さな白い花が咲いていたりと失敗も続いていた。

「これは白い花がついてる。これは葉っぱが虫に食べられてる。これは……あ、薬草だ」

 10本に1本の確立で薬草が生えているため、時間もかかる。
 今カゴの中に入っているのは14本。
 後1本さえ見つかれば依頼達成だというのにそういう時に限って何も見つからない。

「後1本。花がついてないやつ」

 千花は植物を無為に引っこ抜かないように注意しながら探していく。
 一歩踏み出して更に奥の植物をかき分けた瞬間、求めていた薬草が目に入った。

「あった! ……ん?」

 千花が喜びながら薬草を引っこ抜く。
 それをカゴに入れ、立ち上がろうとした時に、今まで見たことのない黄色い花がついた植物を見つけた。

「これも毒なのかな」

 千花が興味本位で黄色い花のついた植物を抜いてみる。
 他の薬草と違い、これは初めて見るものだ。
 もしかしたら珍しい植物なのかもしれない。

「安城先生! 黄色い花があったんですけどこれはなんですか?」

 知識は多い方がいいだろうと千花はただの興味で遠くにいる邦彦に声を張り上げる。
 邦彦はシモンとの会話を一旦止め、千花が見せてくる植物に目を通す。

「黄色い花って……ああ、あれか」
「そうですね。田上さん、それは薬草ではありません。森の獣がよく好んで食べる高魔力の植物です」

 邦彦に教えられた後、再び千花は黄色い花を見下ろす。

(獣が好きな食べ物なんだ。じゃあ戻しておいた方がいいよね)

 千花は足元に黄色の花を置くために座り込む。
 一度抜いてしまった植物を返すことはできないが、その場に置いておくことはできる。

(よし。後は戻って……)

 千花が立ち上がり、振り返ろうとした瞬間、雲一つなかった薬草畑が陰った。
 千花が気になって空を見上げると、何かが近づいてきていた。
 千花が呆けていると何かは一気に近づいてきて、彼女の目の前に大きな音を立てて降り立った。
 それは3メートルを優に超えるゴリラによく似た猛獣だった。
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