光の巫女

雪桃

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第3章 ウェンザーズ

これが悪魔の脅威

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 女性の自宅は外よりも寒く、所々すきま風が吹いてくる程木材が老朽化している。

「お茶もお出しできなくて申し訳ないです」
「いいえ、こちらが押しかけたので」

 女性に促されてこれまた鈍い音を立てて折れてしまいそうな木材の椅子に2人は腰かける。
 その目の前に女性は座る。

「申し遅れました。私はマリカと言います。この家で、今のところ家主を務めております」

 マリカと名乗った彼女に続いて千花と興人も人間の素性は隠して名前を言う。
 そしてすぐに本題に入った。

「さっきの男は知り合いですか」

 興人の問いにマリカは首を横に振った。

「全く知らない人です。いえ、語弊がありますね。悪魔に乗っ取られる前までは知らない人でした」
「乗っ取られる前?」

 マリカは腫れている頬をそのままに2人に説明を始めた。

「3年前、悪魔に国を乗っ取られた時に起きたことです。悪魔は私達に2つ重税を課しました。1つ目は全ての食物を魔王に献上することです。育てていた物も、飢えを凌ぐために貯蔵していた物も、一瞬のうちに全て奪われました」

 マリカがここまで痩せ細っているのはそれが理由だろう。
 食物がなければお金も入らない。

「2つ目は男達の徴収です。若く健康な男は魔王の下で労働を強制されました」
「抵抗はしなかったんですか」
「しました。でも魔王は洗脳と脅しを使ったんです。逆らった男の家族を牢屋に閉じ込め、飢えを無理矢理引き起こし、猛獣にして野に放すという暴挙を行ったんです」

 マリカの言葉に千花ははっとして興人の方に視線を向ける。
 興人も辻褄があったらしく、眉を寄せて表情を険しくする。

「猛獣にされたらすぐに飢えを満たさなければいけないのに、魔王は身元もわからなくして、理性を失わせて冒険者に殺させてた。罰を受けた彼らは、正気を保てなくなって魔王の下につくことになった」

 説明しながらマリカは唇をきつく噛みしめながら苦しそうに顔を歪める。
 悪魔に占領されたことのない千花でもその苦しみは伝わってくる。
 あの男のように魔王に洗脳された人も、マリカのように取り残された人も、本来なら受けなくていい苦しみを味わっているのだろう。

「そんなことが3年。私達のように戦力にならない獣人は作物を献上する役目を課せられました。少しずつ切り詰めていきながら、家族が死なないように何とか命令を聞いていましたが、もう限界です。もう、最後に食事をした日も覚えてないくらい」

 最後の方は国の現状というよりもマリカがどれだけ追い詰められているかを物語るものだった。
 我を忘れるほど窮地に陥っているのだろう。
 千花がどう声をかけようか迷っていると、興人が音を立てて立ち上がる。

「お時間をもらいありがとうございます。それではこれで」

 興人は礼とばかりに腫れに効く薬を机に置いて驚いている千花を連れてマリカの家を出ていく。

「興人! これでいいの?」

 千花の発言に興人は歩みを止めないまま答える。
 千花の意図を理解したうえで家を離れたのだろう。

「俺達の仕事は情報収集だ」
「でもほら、慰めの言葉とか。防衛の手伝いとか」

 千花の意見に歩みを止め、興人は冷静にその顔を見つめる。

「言葉をかけたところで今の状況は変わらない。むしろ、俺達が庇ったことで悪魔に存在を気づかれ、更に不利になる」
「でも、そしたらマリカさんは明日も明後日も」
「俺達がここに来た理由を忘れたか?」

 興人の真剣な眼差しと声音に千花ははっと顔を上げる。

「魔王を倒し、人々を救う」

 千花の言葉に興人は力強く頷いた。

「言葉より、防御より、悪魔を倒すことが彼らを早く救える」

 千花も興人の言葉に頷いて唇を強く引き結ぶ。
 マリカの訴えを聞き、その弱々しい体を見て、ようやく悪魔に侵される人を実感できた。
 この3年で、殺された人もいる。

(マリカさんのために。洗脳された人のために。私が絶対魔王を倒さないと)

 爪が食い込むほど強く拳を握りしめる千花を見下ろし、興人はゆっくり口を開く。

「だからと言って、1人で魔王に立ち向かおうなんて考えなくてもいい」
「え?」

 千花は地面に落としていた視線を再び上げ、興人と目を合わせる。

「悪魔は必ず倒す。だが、1人で倒さなければいけないなんて決められてない。田上が立ち向かう勇気さえ持っていれば、俺も必ず力になる」

 力強く言いながら興人は千花の前に片手を差し出す。
 千花はしばらく興人の言葉を頭で噛みしめていたが、その意味を理解した瞬間、目頭が熱くなり、一度顔を地面に落とす。
 しかしそれも束の間。
 すぐに勢いよく顔を上げると口角を上げて両手で強く興人の手を握りしめる。

「興人、私絶対世界を救ってみせるから! 最後まで協力して!」
「……ああ」

 千花の強い意気込みに、興人も口角を少し緩め、手に力を強めた。



 千花達が指定された場所に戻ると、そこにはシモンと邦彦が既に待機していた。
 人目につかない場所で千花達は合流する。

「情報の共有をしましょう。そちらはどうでした」

 邦彦の問いかけに興人がマリカから聞いた話をそのまま伝える。
 かなり有益な情報をもらったのではないかと千花は話を聞きながら思った。

「先生方は何かありましたか」

 興人から問いかけられた2人は互いに少し目を合わせた後、口を開く。

「僕達は話を聞けなかったので推測になりますが、いくつか要点は見えました」

 監視がないことを再び確認してから邦彦は説明に入る。

「1つ目は日向君も言っていた監視ですね。軽装ではありますが、体格の良い男性が辺りを周っています。恐らく国外へ逃亡させないことと、反乱を起こさせないためでしょう」
「それと、お前らが聞いた話と換算して、魔王の正体も考察できるな。兵を徴収するだけならどの魔王でもやりそうだが、食料を無闇に奪い取るってのは」
「暴食の王、べモスでしょう」

 2人の推測に千花は首を傾げながら浮かんだ疑問を口に出す。

「魔王に種類があるんですか」
「ええ。と言っても確認されているのは4体だけですが。そのうちウェンザーズを支配しているのはべモスと呼ばれている暴食を司る魔王でしょう」

 暴食がどういう意味かは千花でもわかる。
 確かに国を支配する中で命令に食料の徴収をわざわざ命ずるのは引っ掛かることだろう。
 千花が考えている中で、シモンが顎に手を当てて何かを思案している素振りを見せた。

「だが、ここまで人がいないのは少し変だな」
「変?」

 シモンは視線を下げながら更に言葉を紡ぐ。

「トロイメアまでではないが、ウェンザーズも大国だ。べモスが兵を徴収したとしてもこれだけ人が少ないのは不自然だ」
「それは、幽閉されたり猛獣にされたり」
「だとしても力のある男以外を1か所に閉じ込められる程の規模はどこにもないはずだ。猛獣にされたとしてもそこまで多く飢えさせていれば逆に魔王が襲われる。そんな馬鹿なことはしないだろう」
「つまり、俺達がまだ知らない陣営がいると?」

 シモンの言葉を理解できるように興人が要約する。
 シモンはその通りとばかりに1つ頷いた。

「それが味方かどうかはわかりませんが」
「この国の実態を掴むまでは悪魔の城には行けねえな」

 マリカ達のためにと急く気持ちと、まだ見ぬ得体の知れない者への疑心に焦る。
 そんな千花達をどこかから黄色く光る何かが見つめていた。
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