夜明けの輝き

田丸哲二

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母からの電話

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「ちょっとでいいから、帰って来れないかい?」

 お盆休みの数日前に田舎で父と二人で暮らしている母から電話があり、疲れた声でそう言われた。普段は弱音を吐かない人なので、余程困っているのかと不安になる。

 子供たちも手が離れたので久しぶりに妻と温泉旅行にでも行こうかと計画していたが、僕は二、三日だけでも帰省することにした。

「心配でしょ?私の事は気にしないで」

 妻は後で近場に旅行に行ければいいと言ってくれたが、自分への気遣いというより、『私は帰りたくないので、一人で頑張って来て』と言う事である。

「そのかわり、貴方が帰って来るまでこっちで遊んでていいでしょ?」

 結婚した当初から妻は自分の母とは仲が悪く、嫁と姑というか、性格が合わないというのか?男の自分には分からない女性同士の感情的な問題があると思われた。

「お父さん、ボケてきたのか夜明けと共にいなくなるのよ」

 数週間前から父が徘徊し始め、今までそんな兆候もなく、厳格な人だが読書と音楽を愛し、定年を迎えるまでは高校で数学の教師をしていた事もあって逆に驚きと不安で母は動揺していた。

「気になって、眠れないの。まだ薄暗いのにパジャマのまま出かけて、三時間ほどしたら帰って来るんだけどね」

「認知症?それは心配だな」

 母は最初は何処で何をしているのかと問い詰めたそうだが、本人は記憶に無いと黙秘を通し、女に逢ってるのかと聞くと癇癪を起こして怒り出し、それ以来見て見ぬ振りをしている。

「まさかその歳で浮気はないだろ?」

「そうだけど。お父さん、教師の頃モテたでしょ?それに今もダンディーだと本人は思ってるわよ」

 遠い昔の話であるが、父は女子生徒との恋愛疑惑があり離婚騒動が巻き起こった。母はそのことを思い出し、不安と恐怖で不眠症になってしまったらしい。

「尾行っていうの。それ、あなたにお願いします」

 母は真剣に晩年の夫婦の危機と捉え、とにかく父が夜明けに徘徊して何をしているのか確かめて欲しいと僕に依頼した。
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