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絵本の国の涙
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のんちゃんは、ミリオと一緒に閉ざされた部屋の扉を開けました。そこは、まるで絵本の中の一ページが色褪せてしまったかのような場所。壁にはくすんだ色の物語のイラストが並び、床には散らかった紙くず。ぽつんと座っていたのは、一冊の古びた絵本でした。
「……もう、誰も、読んでくれないんだよ」
かすれた声が聞こえ、のんちゃんはびっくりして後ろに下がりました。「しゃ、しゃべった! 本がしゃべった!」と目を丸くするのんちゃんに、ミリオは小さくうなずきました。
「この子は“ものがたりの心”。昔、大切に読まれていた絵本の精なんだ。けどね、長い時間、開かれずに放っておかれたせいで、どんどん元気がなくなってきて……」
のんちゃんはそっと膝をついて、しゃべる絵本を見つめました。「ねぇ、どうしてそんなに悲しい顔してるの?」
「……私は、のんちゃんみたいな子に、声を出して読んでもらうのが一番幸せだったんだ。でも、あるときから、だーれも開いてくれなくなって、気がついたら、この部屋にひとりぼっちだったの」
のんちゃんは胸がじんと痛みました。絵本は、誰かに読まれるために生まれてきたのに、それが叶わないなんて……。
「それって、すっごくさみしいね……。あたし、今から読むよ! ぜーんぶ、声に出して! だから、元気出して?」
ミリオが小さく笑い、「さすが、お留守番のプロだね」と言いました。のんちゃんは照れながら絵本を開きました。
声に出して、ひと文字ずつ読み上げていくと、不思議なことが起こり始めました。ページの中のイラストが、ひとつずつ輝きを取り戻し、色鮮やかに変わっていきます。そして、まるで魔法のように、部屋全体が明るくなり、風がそよそよと吹き抜けました。
「ありがとう、のんちゃん……私は、まだ、ここにいてもいいんだね」
絵本の精が、涙をこぼしながら微笑みました。その涙はまるで星のしずくのようにキラキラ光り、部屋を満たしていきました。
「もう、絶対に忘れたりしないよ。これからもいっぱい、読んであげるから!」
のんちゃんは力強く約束しました。その瞬間、精霊は小さな光の粒となって、のんちゃんの胸の中にすっと溶け込んでいきました。
7. 絵本の声を未来へ
まばゆい光に包まれていた部屋が、やがて落ち着きを取り戻すと、のんちゃんの手には一冊の絵本が残っていました。その表紙には、見たことのない美しいタイトルが書かれていました──『未来にとどく、のんちゃんの声』。
「……これって、さっきの絵本?」
「そう。君の声でよみがえったんだ。君の気持ちが、この本を生まれ変わらせたんだよ」
ミリオが静かに言いました。
すると、背後の扉がゆっくりと開きました。おしゃべり絵本の森に光が差し込み、明るく温かい風が吹き込んできます。静かだった空間が、少しずつ活気を取り戻していくようでした。
「のんちゃん、ありがとう。君のおかげで、絵本たちはまた未来を信じられるようになった」
とミリオが言い、にっこりと笑いました。
「えへへ……のんちゃんはね、お留守番のプロだから! こういうの、まっかせてー♪」
のんちゃんは胸を張ります。そして、ふと大事なことを思い出しました。
「でも……どうして、読まれなくなっちゃったのかな?」
ミリオは少しだけ寂しそうに言いました。「時代が進んで、いろんな楽しいことが増えたからかな。でも、本当は……絵本だって、まだまだ誰かのそばにいたいんだ」
のんちゃんはそっと絵本を抱きしめました。「わかった。あたしが、ぜったいに忘れないよ。毎日ちょっとずつでも、読んであげる!」
その言葉に、森の中の木々がざわざわと揺れ、空には優しい光が差し込みました。
「ありがとう、のんちゃん……」
ミリオの声が風に乗って響き、のんちゃんはふと気づきました。絵本の中の出来事だったはずのことが、ちゃんと心の中に残っている。夢じゃなかった。
そのとき──現実の世界、のんちゃんの部屋の窓辺に、一枚の葉っぱがふわりと舞い降りました。それは、まるで“羽”のような形をした、小さな小さな風の贈り物。
「……うん、ちゃんと覚えてるよ。のんちゃん、ずーっと読むからね」
そう言って、のんちゃんは絵本を開きました。物語は、また新たなページを刻み始めていました。
のんちゃんが差し伸べた手の先で、ミリオの小さな光が揺れていた。
やさしい風が吹いて、草原の中の本たちが一斉にページを開いたように、パラパラと音を立てて息を吹き返していく。
「みんな……!」
ミリオの声が震えた。
「みんな、起きて……!また、世界が動き出してる……!」
おしゃべり絵本たちは、少しずつ目を覚まし、眠っていた声を取り戻す。
「……読まれたい……」「お話、したい……」「だれかに、伝えたい……」
ページの中からこぼれる言葉は、どれもあたたかくて、少しだけ寂しさの混じったものだった。
のんちゃんは、それをすべて両手で包み込むように、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「ごめんね。知らなかったの。こんなにたくさんの気持ちが、絵本の中に詰まってるなんて。」
のんちゃんの目に、透明な涙が浮かぶ。
ミリオがその頬をそっと撫でた。光の羽がやさしく頬をなぞる。
「君がここに来てくれたおかげで、この世界はもう一度声を取り戻せた。ありがとう、のんちゃん。」
のんちゃんは、涙の中でにっこり笑った。
「ううん、ありがとうっていうのは、私の方だよ。ミリオ……それに、みんな……」
そして、のんちゃんは草原の中央に立ち、大きな声で宣言した。
「これから、ぜーんぶ読むからね! どんなに古くても、知らないお話でも、絶対に読むよ! 私が、約束する!」
すると、その言葉が空に届いたのか、世界がきらりと光を放った。
青空がさらに澄み、草原の向こうに虹がかかる。
おしゃべり絵本たちが一斉に拍手するように、ページをぱらぱらとめくりながら歓声を上げた。
「よかった!」「うれしい!」「また、物語がはじまる!」
その光景を見て、のんちゃんの胸がほっこりあたたかくなる。
ミリオが笑った。ほんのり光っていた羽が、虹のきらめきと一つになる。
「のんちゃん、君が来てくれて本当によかった。君の声が、約束が、この世界を救ってくれたんだ。」
のんちゃんはうなずき、ミリオに手を振った。
「また来るよ!お話、いっぱい読んで、いっぱい覚えて、もっともっと好きになるから!」
――次の瞬間、世界がゆっくりとフェードアウトし、ページのようにめくれていく。
気づけば、のんちゃんはいつものお部屋の中。
さっきまでの冒険が夢だったのかと錯覚しそうになる。でも――
「ん?」
ふと枕元を見ると、一冊の絵本が置かれていた。表紙の隅には、小さなサイン。
《ありがとう のんちゃんへ ミリオ》
のんちゃんはそれをそっと開く。
「……やっぱり、夢なんかじゃなかった!」
ページをめくるたびに、小さな声が聞こえてくる。笑って、泣いて、励ましてくれる声。
のんちゃんは、深呼吸してページを抱きしめた。
「うん。お話って、やっぱりすごいな。大好き……!」
そしてその晩、のんちゃんはミリオとの約束を守るため、
何冊もの絵本を読みはじめた。
おしゃべり絵本の世界では、いまもどこかで――
「しーっ、しーっ。今、のんちゃんが読んでくれてるよ!」
小さな声がページの奥でささやいている。
(完)
「……もう、誰も、読んでくれないんだよ」
かすれた声が聞こえ、のんちゃんはびっくりして後ろに下がりました。「しゃ、しゃべった! 本がしゃべった!」と目を丸くするのんちゃんに、ミリオは小さくうなずきました。
「この子は“ものがたりの心”。昔、大切に読まれていた絵本の精なんだ。けどね、長い時間、開かれずに放っておかれたせいで、どんどん元気がなくなってきて……」
のんちゃんはそっと膝をついて、しゃべる絵本を見つめました。「ねぇ、どうしてそんなに悲しい顔してるの?」
「……私は、のんちゃんみたいな子に、声を出して読んでもらうのが一番幸せだったんだ。でも、あるときから、だーれも開いてくれなくなって、気がついたら、この部屋にひとりぼっちだったの」
のんちゃんは胸がじんと痛みました。絵本は、誰かに読まれるために生まれてきたのに、それが叶わないなんて……。
「それって、すっごくさみしいね……。あたし、今から読むよ! ぜーんぶ、声に出して! だから、元気出して?」
ミリオが小さく笑い、「さすが、お留守番のプロだね」と言いました。のんちゃんは照れながら絵本を開きました。
声に出して、ひと文字ずつ読み上げていくと、不思議なことが起こり始めました。ページの中のイラストが、ひとつずつ輝きを取り戻し、色鮮やかに変わっていきます。そして、まるで魔法のように、部屋全体が明るくなり、風がそよそよと吹き抜けました。
「ありがとう、のんちゃん……私は、まだ、ここにいてもいいんだね」
絵本の精が、涙をこぼしながら微笑みました。その涙はまるで星のしずくのようにキラキラ光り、部屋を満たしていきました。
「もう、絶対に忘れたりしないよ。これからもいっぱい、読んであげるから!」
のんちゃんは力強く約束しました。その瞬間、精霊は小さな光の粒となって、のんちゃんの胸の中にすっと溶け込んでいきました。
7. 絵本の声を未来へ
まばゆい光に包まれていた部屋が、やがて落ち着きを取り戻すと、のんちゃんの手には一冊の絵本が残っていました。その表紙には、見たことのない美しいタイトルが書かれていました──『未来にとどく、のんちゃんの声』。
「……これって、さっきの絵本?」
「そう。君の声でよみがえったんだ。君の気持ちが、この本を生まれ変わらせたんだよ」
ミリオが静かに言いました。
すると、背後の扉がゆっくりと開きました。おしゃべり絵本の森に光が差し込み、明るく温かい風が吹き込んできます。静かだった空間が、少しずつ活気を取り戻していくようでした。
「のんちゃん、ありがとう。君のおかげで、絵本たちはまた未来を信じられるようになった」
とミリオが言い、にっこりと笑いました。
「えへへ……のんちゃんはね、お留守番のプロだから! こういうの、まっかせてー♪」
のんちゃんは胸を張ります。そして、ふと大事なことを思い出しました。
「でも……どうして、読まれなくなっちゃったのかな?」
ミリオは少しだけ寂しそうに言いました。「時代が進んで、いろんな楽しいことが増えたからかな。でも、本当は……絵本だって、まだまだ誰かのそばにいたいんだ」
のんちゃんはそっと絵本を抱きしめました。「わかった。あたしが、ぜったいに忘れないよ。毎日ちょっとずつでも、読んであげる!」
その言葉に、森の中の木々がざわざわと揺れ、空には優しい光が差し込みました。
「ありがとう、のんちゃん……」
ミリオの声が風に乗って響き、のんちゃんはふと気づきました。絵本の中の出来事だったはずのことが、ちゃんと心の中に残っている。夢じゃなかった。
そのとき──現実の世界、のんちゃんの部屋の窓辺に、一枚の葉っぱがふわりと舞い降りました。それは、まるで“羽”のような形をした、小さな小さな風の贈り物。
「……うん、ちゃんと覚えてるよ。のんちゃん、ずーっと読むからね」
そう言って、のんちゃんは絵本を開きました。物語は、また新たなページを刻み始めていました。
のんちゃんが差し伸べた手の先で、ミリオの小さな光が揺れていた。
やさしい風が吹いて、草原の中の本たちが一斉にページを開いたように、パラパラと音を立てて息を吹き返していく。
「みんな……!」
ミリオの声が震えた。
「みんな、起きて……!また、世界が動き出してる……!」
おしゃべり絵本たちは、少しずつ目を覚まし、眠っていた声を取り戻す。
「……読まれたい……」「お話、したい……」「だれかに、伝えたい……」
ページの中からこぼれる言葉は、どれもあたたかくて、少しだけ寂しさの混じったものだった。
のんちゃんは、それをすべて両手で包み込むように、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「ごめんね。知らなかったの。こんなにたくさんの気持ちが、絵本の中に詰まってるなんて。」
のんちゃんの目に、透明な涙が浮かぶ。
ミリオがその頬をそっと撫でた。光の羽がやさしく頬をなぞる。
「君がここに来てくれたおかげで、この世界はもう一度声を取り戻せた。ありがとう、のんちゃん。」
のんちゃんは、涙の中でにっこり笑った。
「ううん、ありがとうっていうのは、私の方だよ。ミリオ……それに、みんな……」
そして、のんちゃんは草原の中央に立ち、大きな声で宣言した。
「これから、ぜーんぶ読むからね! どんなに古くても、知らないお話でも、絶対に読むよ! 私が、約束する!」
すると、その言葉が空に届いたのか、世界がきらりと光を放った。
青空がさらに澄み、草原の向こうに虹がかかる。
おしゃべり絵本たちが一斉に拍手するように、ページをぱらぱらとめくりながら歓声を上げた。
「よかった!」「うれしい!」「また、物語がはじまる!」
その光景を見て、のんちゃんの胸がほっこりあたたかくなる。
ミリオが笑った。ほんのり光っていた羽が、虹のきらめきと一つになる。
「のんちゃん、君が来てくれて本当によかった。君の声が、約束が、この世界を救ってくれたんだ。」
のんちゃんはうなずき、ミリオに手を振った。
「また来るよ!お話、いっぱい読んで、いっぱい覚えて、もっともっと好きになるから!」
――次の瞬間、世界がゆっくりとフェードアウトし、ページのようにめくれていく。
気づけば、のんちゃんはいつものお部屋の中。
さっきまでの冒険が夢だったのかと錯覚しそうになる。でも――
「ん?」
ふと枕元を見ると、一冊の絵本が置かれていた。表紙の隅には、小さなサイン。
《ありがとう のんちゃんへ ミリオ》
のんちゃんはそれをそっと開く。
「……やっぱり、夢なんかじゃなかった!」
ページをめくるたびに、小さな声が聞こえてくる。笑って、泣いて、励ましてくれる声。
のんちゃんは、深呼吸してページを抱きしめた。
「うん。お話って、やっぱりすごいな。大好き……!」
そしてその晩、のんちゃんはミリオとの約束を守るため、
何冊もの絵本を読みはじめた。
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「しーっ、しーっ。今、のんちゃんが読んでくれてるよ!」
小さな声がページの奥でささやいている。
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