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一部最終章
弟、父そして妹
門を警護する兵の正面に寄ったグレイは覚えているかなぁ、と少し不安げに文字を描く。
『家族に会いに来ました』
自分の家なのに何処か他人行儀なのは領主邸で暮らしたことがないためか、それとも緊張しているのか。どちらにしても帰宅したようには見えない。
『通してください』
グレイの姿を見た兵がまるで石の彫像のように固まって動かなくなってしまった。グレイからしたら背の高い大男。避けて通ることもできずに立ち往生をしていると、横からネロが横腹辺りをえいっ、と言いながらつつく。
男はビクッとしてネロを一瞬見た後、再びグレイの方をチラッと顔を見た後素早く裏門を開けた。
何なんだろう、と思いながらグレイは門を通る。その間も男は図体に合わずどこか怯えた様子でグレイと顔を合わせない。
「もしかして、お化けとか思ってるんじゃないかにゃ?ライルとかが全員に生きてることを伝えてないのかも」
グレイの横を歩きながらコソッとネロが話す。チラリと後ろを見れば明らかにホッとした様子の男が見えたので確かに、と思うグレイ。
そうして領主邸の正面玄関の前に着いたグレイはゆっくりと扉を開ける。
聖獣の中で見た幻覚は確かにリアルで自分の家のように感じられたが、やはり現実では自分の家のように感じない違和感のようなものを感じた。
そんな中、数ある扉の中の一つから人が出て来た。その人物は剣を持ち運動用と見られる軽装だった。
扉を閉め、「さて外に行こう」という感じで前を向いたその人物は目の前のグレイを見て固まった。
そして、石化の解けた口で叫ぶ。
「姉上!?何故ここに!」
『ただいま、ライル』
◇◇◇
「はぁ、心臓に悪いから今度はあらかじめ連絡が欲しい……レイラさんがいたのに何でこうなった」
ひとしきり驚いたライルはグレイ達を客間へと案内し、頭に手を当てて座る。
「いやぁ何処かで見たことある光景にゃね」
「それで?急に帰って来たのはなんでなんだ?」
『旅をして家族を知りたくなったから』
「?」
ネロを見ながらグレイはそう答えた。
ロベドとジークの関係、カシムとバルのギクシャクした親子、ネロとアグリナのすれ違う親子。
そして、あり得たかもしれない自分と家族。
経歴、血筋そういうステータスのようなものではない何かをグレイは旅を通して感じて来た。だからこそ帰って来たのだ。
『それに、約束したでしょ?リリィに会いに来て欲しいって』
「あ……」
ライルはグレイが家出をする前の約束を忘れていない事に驚き、妹に興味があることが嬉しかった。
「そうだな、リリィも喜ぶと思う。ただ、その前に父上にも顔は出して欲しいな。あの人が一番姉上のことを心配してたから」
『わかった』
グレイはライルと共にアルベルトの執務室へと歩く。
その間も幻覚の時の自分との乖離を感じながらそれでもあんな風になれるのか考えていた。
「父上、ライルです」
ライルが先に扉をノックして確認する。すると「入れ」との声だけが聞こえる。
久しぶりの父親との対面。思わず唾を飲み込みながらグレイはライルの後ろに続いて中に入る。
中には書類に囲まれ椅子に座り仕事をするアルベルトがいた。
アルベルトは中に入って来たライルを見るために顔を上げた。
(顔に元気が無い……疲れてるのかな)
周りにある紙の量が仕事の鬼となったアルベルトの疲弊を感じさせる。
顔を上げたアルベルトはすぐにグレイに気がついた。
アルベルトはグレイに駆け寄り力強く抱きしめる。
「無事でよかった……!本当にすまない、私は最低の父親だ。すまなかった……」
アルベルトはグレイを抱きしめながら今までのことを謝り倒す。
グレイはそんなアルベルトの背中を優しく叩き抱きしめた後、顔を合わせ目を見ながら文字を描く。
『気にしてないから謝らないで?』
文字だけでは伝わらない感情をアルベルトに微笑みかけることで表すグレイ。そんなグレイを見て「そうか……」とアルベルトは謝るのをやめた。
そんなアルベルトの心のしこりが無くなった途端、後ろで静かに見守っていたネロからくぅ~~と腹の音がなる。
「ネロさん……」
「えっと、その、ごめんなさい」
良い雰囲気な所でお腹の音を鳴らしたネロは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「いや、いい。食事にしよう。グレイがどんな旅をして来たのか聞いてみたい。良いか?」
グレイはアルベルトの提案に首を縦に振って賛同する。
アルベルトは残る仕事を片付けると言って仕事に戻った。
「僕はリリィを連れてくる。姉上は食堂で待っていてくれ。爺、頼めるか?」
「ええ、こちらです」
グレイ達は老執事の案内で食堂へと通された。
しばらくしてライルが食堂へと後ろに人を連れ入って来た。
赤い髪を靡かせてライルの後ろにくっつくリリィは初めて会うグレイに緊張しながら挨拶をする。
「は、初めまして。リリィっていいます!その……」
初めて会う異母姉に緊張するリリィに気がついたグレイは微笑んで挨拶をする。
『初めまして、リリィ』
◇◇◇
「えぇ!?ネロさん王族だったの!?」
「もう違うけどにゃあ」
食事をしながらグレイの旅の話をする。カシムとの出会い、リバイアサンとの戦い、スタンピード、ジーク達との出会い、ネロとの出会い、獣王国の話。
色々な話をネロの合いの手を交えながら話すグレイは不思議と会話が弾んでいく。
「やっぱり旅は楽しいですか?」
『うん、知らない事が沢山あって楽しいよ』
「そうなんですね!私も行ってみたいなぁ」
目を輝かせて話を聞く様子を見たライルは「やっぱり姉妹だなぁ」微笑ましく思いながら見ていた。
「また、旅に出るのか?」
静かにグレイの話を聞いていたアルベルトが話題を見つけて会話に混ざる。口下手なりにタイミングを見計らっていたらしい。
『そのつもり』
「そうか……たまには帰って来ても良いからな。ここはお前の家でもあるのだから」
『わかった』
その後も初めての家族との団欒を過ごしたグレイとネロはリリィの要望でリリィの部屋で寝る事になった。
ネロは辞退しようとしたがリリィが引き留めた事で折れたのだ。
旅の話をベッドの上でも目を輝かせて聞いていたリリィはいつの間にか寝息を立てて寝てしまっていた。
「良い子みたいで良かったにゃ。それにグレイに少し似てる」
『そう?』
「初めて見るものを見てる時のグレイにそっくり」
グレイはあり得たかもしれない世界を思い出しリリィの頭を撫でながら眠りについた。
『家族に会いに来ました』
自分の家なのに何処か他人行儀なのは領主邸で暮らしたことがないためか、それとも緊張しているのか。どちらにしても帰宅したようには見えない。
『通してください』
グレイの姿を見た兵がまるで石の彫像のように固まって動かなくなってしまった。グレイからしたら背の高い大男。避けて通ることもできずに立ち往生をしていると、横からネロが横腹辺りをえいっ、と言いながらつつく。
男はビクッとしてネロを一瞬見た後、再びグレイの方をチラッと顔を見た後素早く裏門を開けた。
何なんだろう、と思いながらグレイは門を通る。その間も男は図体に合わずどこか怯えた様子でグレイと顔を合わせない。
「もしかして、お化けとか思ってるんじゃないかにゃ?ライルとかが全員に生きてることを伝えてないのかも」
グレイの横を歩きながらコソッとネロが話す。チラリと後ろを見れば明らかにホッとした様子の男が見えたので確かに、と思うグレイ。
そうして領主邸の正面玄関の前に着いたグレイはゆっくりと扉を開ける。
聖獣の中で見た幻覚は確かにリアルで自分の家のように感じられたが、やはり現実では自分の家のように感じない違和感のようなものを感じた。
そんな中、数ある扉の中の一つから人が出て来た。その人物は剣を持ち運動用と見られる軽装だった。
扉を閉め、「さて外に行こう」という感じで前を向いたその人物は目の前のグレイを見て固まった。
そして、石化の解けた口で叫ぶ。
「姉上!?何故ここに!」
『ただいま、ライル』
◇◇◇
「はぁ、心臓に悪いから今度はあらかじめ連絡が欲しい……レイラさんがいたのに何でこうなった」
ひとしきり驚いたライルはグレイ達を客間へと案内し、頭に手を当てて座る。
「いやぁ何処かで見たことある光景にゃね」
「それで?急に帰って来たのはなんでなんだ?」
『旅をして家族を知りたくなったから』
「?」
ネロを見ながらグレイはそう答えた。
ロベドとジークの関係、カシムとバルのギクシャクした親子、ネロとアグリナのすれ違う親子。
そして、あり得たかもしれない自分と家族。
経歴、血筋そういうステータスのようなものではない何かをグレイは旅を通して感じて来た。だからこそ帰って来たのだ。
『それに、約束したでしょ?リリィに会いに来て欲しいって』
「あ……」
ライルはグレイが家出をする前の約束を忘れていない事に驚き、妹に興味があることが嬉しかった。
「そうだな、リリィも喜ぶと思う。ただ、その前に父上にも顔は出して欲しいな。あの人が一番姉上のことを心配してたから」
『わかった』
グレイはライルと共にアルベルトの執務室へと歩く。
その間も幻覚の時の自分との乖離を感じながらそれでもあんな風になれるのか考えていた。
「父上、ライルです」
ライルが先に扉をノックして確認する。すると「入れ」との声だけが聞こえる。
久しぶりの父親との対面。思わず唾を飲み込みながらグレイはライルの後ろに続いて中に入る。
中には書類に囲まれ椅子に座り仕事をするアルベルトがいた。
アルベルトは中に入って来たライルを見るために顔を上げた。
(顔に元気が無い……疲れてるのかな)
周りにある紙の量が仕事の鬼となったアルベルトの疲弊を感じさせる。
顔を上げたアルベルトはすぐにグレイに気がついた。
アルベルトはグレイに駆け寄り力強く抱きしめる。
「無事でよかった……!本当にすまない、私は最低の父親だ。すまなかった……」
アルベルトはグレイを抱きしめながら今までのことを謝り倒す。
グレイはそんなアルベルトの背中を優しく叩き抱きしめた後、顔を合わせ目を見ながら文字を描く。
『気にしてないから謝らないで?』
文字だけでは伝わらない感情をアルベルトに微笑みかけることで表すグレイ。そんなグレイを見て「そうか……」とアルベルトは謝るのをやめた。
そんなアルベルトの心のしこりが無くなった途端、後ろで静かに見守っていたネロからくぅ~~と腹の音がなる。
「ネロさん……」
「えっと、その、ごめんなさい」
良い雰囲気な所でお腹の音を鳴らしたネロは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「いや、いい。食事にしよう。グレイがどんな旅をして来たのか聞いてみたい。良いか?」
グレイはアルベルトの提案に首を縦に振って賛同する。
アルベルトは残る仕事を片付けると言って仕事に戻った。
「僕はリリィを連れてくる。姉上は食堂で待っていてくれ。爺、頼めるか?」
「ええ、こちらです」
グレイ達は老執事の案内で食堂へと通された。
しばらくしてライルが食堂へと後ろに人を連れ入って来た。
赤い髪を靡かせてライルの後ろにくっつくリリィは初めて会うグレイに緊張しながら挨拶をする。
「は、初めまして。リリィっていいます!その……」
初めて会う異母姉に緊張するリリィに気がついたグレイは微笑んで挨拶をする。
『初めまして、リリィ』
◇◇◇
「えぇ!?ネロさん王族だったの!?」
「もう違うけどにゃあ」
食事をしながらグレイの旅の話をする。カシムとの出会い、リバイアサンとの戦い、スタンピード、ジーク達との出会い、ネロとの出会い、獣王国の話。
色々な話をネロの合いの手を交えながら話すグレイは不思議と会話が弾んでいく。
「やっぱり旅は楽しいですか?」
『うん、知らない事が沢山あって楽しいよ』
「そうなんですね!私も行ってみたいなぁ」
目を輝かせて話を聞く様子を見たライルは「やっぱり姉妹だなぁ」微笑ましく思いながら見ていた。
「また、旅に出るのか?」
静かにグレイの話を聞いていたアルベルトが話題を見つけて会話に混ざる。口下手なりにタイミングを見計らっていたらしい。
『そのつもり』
「そうか……たまには帰って来ても良いからな。ここはお前の家でもあるのだから」
『わかった』
その後も初めての家族との団欒を過ごしたグレイとネロはリリィの要望でリリィの部屋で寝る事になった。
ネロは辞退しようとしたがリリィが引き留めた事で折れたのだ。
旅の話をベッドの上でも目を輝かせて聞いていたリリィはいつの間にか寝息を立てて寝てしまっていた。
「良い子みたいで良かったにゃ。それにグレイに少し似てる」
『そう?』
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。