死ぬくらいなら

御堂どーな

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3 ジグソーパズル

3-4

 目が覚めると、お互い裸のまま、布団の中で抱き合っていた。
 時計を見ると、10:30すぎ。
 蓮はすうすうと寝息を立てていて、咳に苦しむこともなくちゃんと眠れたと分かって安心する。

 起こさないようそっと抜け出して、早めの昼ごはんの準備にとりかかる。
 塩焼きそば。野菜がたくさんとれて、早い、安い、うまい。
 炒めていると、蓮の起きてくる気配がした。

「……ん」
「おはよう」
 定まらない視点で俺をとらえた蓮は、うんと伸びをしたあと、目をこすった。
「眠れた?」
「夢も見ないくらいぐっすり」
「それは良かった」
 ちょっと笑ってお風呂へ消えていく。

 こういう場面だけ切り取ると、本当に普通の日常だなと思って、ささやかな幸福感に包まれた。



 昼過ぎ、蓮がバイトに出かけた。
 ひとりの時間だけど、きょうは何もせずおとなしく家にいることにする。

 人間、2週間近くまともに外出しないでいると、相当体力が落ちるらしい。
 会社に勤めていたときは、毎朝5:00に起きて、1:00過ぎに就寝の生活をしていた。
 いまとなっては信じられないけど、よくもまあそんな生活で1年以上正気を保っていたなと思う――保てなくなったから死のうとしたわけだけど。

 のんびり家事をこなしながら、蓮の帰りを待つ。
 奥さんってこんな心境なのかな、なんて思ったり。

 普段手の届かないところまでホコリを取る作業をしていると、テレビ台の端、本棚の陰になったところに、透明な盾を見つけた。
 初日にチラッと見たものだ。
 良かった。俺に見られたくなくて捨ててしまったのかと思っていたけど、ちゃんととってあった。

 手に取ってみると、少し重みがある。
 クリスタルがくっついた台座のところには、金の文字で『第42回 パブリック・アイデア・アワード 最優秀賞』という文字が刻まれている。
 40年以上歴史のある賞なのか。
 学生の受賞者は史上初だと雑誌に書いてあったし、期待されて当然だろうなと思う。

 その点、自分には何もない。
 元々凡人なうえに、勤め先はブラックで、いまはそれすらもなく無職。
 そして、現状それを脱出しようとする努力もあまりできていなくて、どう考えたって不釣り合いだ。

 頭の中には、『年上なのだし、こんなに甘えていてはいけない』と思う自分と、『自分のことでも精一杯で死のうとしてたのに、誰かのために生きるなんて精神的な余裕はない』という実感としての事実に打ちのめされる自分がいる。

 でも、いつまでもこんな風にしていたら、いつか蓮に置いていかれてしまうような……。

 ハッと、深く考えごとをしていたことに気付いて、また手を動かし始めた。
 盾は見なかったことにして、元の位置へ。

 昨晩『抱かれることが本望だ』と言ったら、蓮はうれしそうにしてたけど、それって、俺が能動的に蓮のことを幸せにしてあげてるのとは違う気もした。

 ひとりで家にいると、雑念が多すぎる。
 早く帰ってこないかな……と、子供のようなことを思った。



 2日間のバイトが終わって帰ってきた蓮は、すごくすっきりした顔をしていた。

「どうだった?」
「うん、楽しかったよ。きょうは参加者の質疑応答もあったから、聞いてて勉強になった。俺もいつか、バイトじゃなくて、普通に参加させてもらいたいなあ。聞いてみたいこと、いっぱいあるんだもん」
「そっかそっか」

 もしかしたら蓮は、少し下積みしたらすぐに、しゃべる側として出るようになるんじゃないかと思う。

「きょうは、学校の友達にも会ってさ。仲良いの5人。最近の様子聞いたら、やっぱ年度末が近づいてきて、大変みたい。満員電車で模型ぶっ壊されないように、始発で行ったりさ。まあこれは、シーズン関係なく建築学生あるあるなんだけど」

 話しぶりが、生き生きしていた。
 きっと戻りたいんだろうなと思いつつ、聞くのは酷だと思って何も話さないでおくことにする。

 夕食をとる間もずっとバイト中に見聞きしたことを話していて、とても楽しそうだった。
 それがどう面白いのかを、門外漢の俺にも分かるように説明してくれる。
 でもたまに、それのどこが面白いのかさっぱり分からない話を、うれしそうに話していて……滑走路の整備を眺めるのが楽しいと言っていた、あの日と同じ穏やかな目をしていた。



 23:00。布団に入ることにする。
 チラッと、きのうみたく咳が出ないかと心配になった――友達と会って、学校の話までしたというから、なおさら心配だ。
 でもまあ、あしたは何もないし、最悪朝まで寝つけなくても、横で背中をさすってやればいいと思うことにした。

 充電コードに繋ぎっぱなしのスマホ。
 SIMカードを折って捨てた空っぽのそれは、いまや、時計兼懐中電灯だ。
 さりげなく手元の近いところに置いて、蓮がいつ咳き込んでもいいように備える。

「ん」
 口を少しとがらせてねだる。
「はーい、仰せのままに」
 いつも通り、長いキスをして、そのまま目を閉じた。
 蓮も、心地良いように俺の頭を抱え直して、やがて寝息を立て始める。
 その後、寝たフリをして30分ほど見守っていたけれど、全然咳が出る気配はなかった。

 バイトが終わって、肩の荷が降りたからだろうか。
 友達に会ったのも、変にプレッシャーになったりはしていなかったようで、安心した。

 何もしていないはずの1日だけど、ひどく長く感じて、とにかく疲れた。
 自分のことも、蓮のことも色々考えたけど……こんなことを思っているなんて、とてもじゃないけど言えそうにない。

 胸のところにぐりっと頭を押し付けて、蓮の体温を感じながら、眠りに身を委ねた。
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