先生がささやいた。だから耳が熱い。

御堂どーな

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10 卒業

10-7

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 式が終わったら、そのまま親と一緒に帰ってきた。
 カラオケへ行く組に誘われたけど、「妹が待ってる」と言ったら、あっさり納得された。
 もうこれで会わないひとが多いだろうから、ここで帰るのは薄情なやつっぽいけど……仲良い3人とは春休みに遊ぶことにしているし、別にいいかなと。
 とにかく、家で休みたい。
 高校生活が、俺の嘘が、終わった。


 夕飯は少し豪華なステーキを食べに行って、家に帰ったのは21:00過ぎ。
 自室でスマホを開くと、あきからメッセージが入っていた。

[あした、うちに来ませんか。もうひとつ約束があるので]
[持ち物は?]
[教科書と筆記用具を持ってきてください]

 トントンと階段を降りて、リビングに顔を出す。
 フォーマル服をハンガーにかける母親に声をかけた。
「あした出かけるね」
「どこに?」
 まさか、聞かれるとは。
 でももう嘘をつく必要はないし、変に動揺するとダメだと思ったから、堂々と答えることにした。
「先生の家」
「ええ……?」
 さすがに不審がられたけど、まあそりゃそうだと思って、でも意地でも嘘はつかないぞと決めた。

「その先生、学年が違うから授業を受けたことなくてさ。けっこう前に教えて欲しいって言ったの、まさかの、本当に覚えててくれてた」
「へえ。何ていう先生?」
「国語の三船先生」
「え!?」
 絶叫したのは、ドラマを見ていた更紗だ。
「それって、超イケメンの先生だよね!?」
「ああ、うん。そのひと」

 更紗はさっと立ち上がったと思ったら、次の瞬間には俺の肩をがっしり掴んで揺さぶっていた。
「わたしも行く!」
「何言ってんだよ無理に決まってるだろ」
「行きたい! イケメン先生と仲良くしたい!」
「更紗は現役高校生なんだから、他校でも問題になっちゃうよ」

 さらっと言ってみたら、母親もうなずいた。
「そうよ。深澄は卒業してるからいいけど、更紗はご迷惑かけることになるんだから。やめておきなさい」
 むくれる更紗に、内心『再び人柱になってくれてありがとう』と思いつつ合掌する。

 無事母に『卒業しているから問題ない』という認識をしてもらえたので、これからは一緒に出かけることになっても『仲良くしてもらってる』『何かと気にかけてくれる』って感じで、卒業後も面倒見の良い先生くらいの感じでいられると思う。
 そこから恋愛に発展しても不思議はないよな。
 性別に不思議はあったとしても、恋愛関係になる道筋として不思議はない。


 そして翌日。
 まさかの、母親に菓子折を持たされた。
「三船先生、こういうの気遣っちゃうタイプだと思うんだけど……」
「何言ってるの。わざわざ休みの日に自宅で勉強を教えていただくんだから、手ぶらでってわけにいかないでしょ」
 申し訳ないねと困ったように笑うあきの顔が目に浮かんだけど、まあ、親にあきのことを話したってことを言ったら、きっと喜んでくれると思った。
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