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「――さて」
春平が居なくなったのを見計らって、冬樹が悪い笑みを浮かべて振りかえった。
「紙袋の中身、拝見しよか」
「え?」
驚く秋恵とは対照的に、皐月がニコニコしながら、
「そこの、机のトコに座って見ましょうか?」と言った。
「ええねぇ、皐月ちゃん。その案、採用や」
「あ、あの」
秋恵が引きとめた。
「勝手にそんなことするんは……」
「かまへん、かまへん」と冬樹。「あいつはそんなことで怒るようなヤツちゃうし、元々、神社で見せてもらう予定やったやん?」
「そうそう」と、うなずく皐月。「秋恵ちゃんかて気になるやろ?」
「それは、その……」
と言ってから、はにかみ笑いを浮かべ、
「気になります……」と答えた。
「決まりやね」
三人は席に座り、机の上に置いた紙袋からガラスケースを取りだした。中には『女形人形』が入っている。
髪を結っているタイプでは無く、後ろ髪を垂らした、珍しいタイプの人形だった。
服装は振袖姿で、紅白を基調とした色遣い、右手には開いた黄金色の扇がある。ただ、全体的に色あせていた。
「へぇ~」と、皐月が感心する。「思った以上に綺麗な人形やね。もっとくすんでるんかと思ってたけど」
「末広っちゅうヤツかなぁ? どうなんやろ」
少しして、秋恵が独りでにうなずいた。何かに納得してるような顔をしていたから、冬樹が「どないしたん?」と尋ねた。
「あの神社、人形供養の神社やったんですね?」
「せやで。正確には人形と針の供養やけどね」
「あそこにあるたくさんの人形、全部、持ち込みなんですか?」
「そうらしいわ。
まあ、今の時代に人形買うなんてこと無いやろうけど、ちょっと昔まではお祝いの贈り物とかに買ったりしてたらしいし、今でも田舎では、そういうやり取りあるって話、聞いたことあるわ」
「へぇ~……」
「一回、栄谷君に昔の淡島神社の写真みせてもろたんやけど…… まぁ、すごい数の人形が並んどったわ」
「やっぱり、昔の方がたくさん人形あったんですね」
「せやから『いわく付き』のモンも多かったんやろなぁ」
「えっ?」
「あの神社の地下にはな、秋恵ちゃん…… 『いわく付き』のモンがようさん納められてるんやで……?」
青ざめた秋恵が固唾をのんでいた。
「大丈夫、大丈夫」
皐月が苦笑いながら手招きしつつ言った。
「部長って夏場になったら、なんでも怖い話に結びつけようとするから。前なんか豆腐の悪魔とかワケ分からんこと言うてたし」
「つれやんなぁ、皐月ちゃんは……」
「怖いの苦手な子に、そんな話振ったらアカンでしょう?」
冬樹が頭をかきながら謝った。そして、覗き込むように皐月の腕時計へ目をやり、
「そろそろ晩ご飯の時間やね」と言った。
「あ、ほんまですね」
皐月が自分の腕時計に目をやりながら言った。
「すまんけど皐月ちゃん、紙袋もっといてくれへん?」と言い、冬樹が人形の入ったガラスケースを持ちあげた。
「了解です」
と、それを受けとるような形で、皐月が紙袋を広げる。
徐々に紙袋の中へ沈んでいく人形を、秋恵は不安気な顔で見つめていた。
春平が居なくなったのを見計らって、冬樹が悪い笑みを浮かべて振りかえった。
「紙袋の中身、拝見しよか」
「え?」
驚く秋恵とは対照的に、皐月がニコニコしながら、
「そこの、机のトコに座って見ましょうか?」と言った。
「ええねぇ、皐月ちゃん。その案、採用や」
「あ、あの」
秋恵が引きとめた。
「勝手にそんなことするんは……」
「かまへん、かまへん」と冬樹。「あいつはそんなことで怒るようなヤツちゃうし、元々、神社で見せてもらう予定やったやん?」
「そうそう」と、うなずく皐月。「秋恵ちゃんかて気になるやろ?」
「それは、その……」
と言ってから、はにかみ笑いを浮かべ、
「気になります……」と答えた。
「決まりやね」
三人は席に座り、机の上に置いた紙袋からガラスケースを取りだした。中には『女形人形』が入っている。
髪を結っているタイプでは無く、後ろ髪を垂らした、珍しいタイプの人形だった。
服装は振袖姿で、紅白を基調とした色遣い、右手には開いた黄金色の扇がある。ただ、全体的に色あせていた。
「へぇ~」と、皐月が感心する。「思った以上に綺麗な人形やね。もっとくすんでるんかと思ってたけど」
「末広っちゅうヤツかなぁ? どうなんやろ」
少しして、秋恵が独りでにうなずいた。何かに納得してるような顔をしていたから、冬樹が「どないしたん?」と尋ねた。
「あの神社、人形供養の神社やったんですね?」
「せやで。正確には人形と針の供養やけどね」
「あそこにあるたくさんの人形、全部、持ち込みなんですか?」
「そうらしいわ。
まあ、今の時代に人形買うなんてこと無いやろうけど、ちょっと昔まではお祝いの贈り物とかに買ったりしてたらしいし、今でも田舎では、そういうやり取りあるって話、聞いたことあるわ」
「へぇ~……」
「一回、栄谷君に昔の淡島神社の写真みせてもろたんやけど…… まぁ、すごい数の人形が並んどったわ」
「やっぱり、昔の方がたくさん人形あったんですね」
「せやから『いわく付き』のモンも多かったんやろなぁ」
「えっ?」
「あの神社の地下にはな、秋恵ちゃん…… 『いわく付き』のモンがようさん納められてるんやで……?」
青ざめた秋恵が固唾をのんでいた。
「大丈夫、大丈夫」
皐月が苦笑いながら手招きしつつ言った。
「部長って夏場になったら、なんでも怖い話に結びつけようとするから。前なんか豆腐の悪魔とかワケ分からんこと言うてたし」
「つれやんなぁ、皐月ちゃんは……」
「怖いの苦手な子に、そんな話振ったらアカンでしょう?」
冬樹が頭をかきながら謝った。そして、覗き込むように皐月の腕時計へ目をやり、
「そろそろ晩ご飯の時間やね」と言った。
「あ、ほんまですね」
皐月が自分の腕時計に目をやりながら言った。
「すまんけど皐月ちゃん、紙袋もっといてくれへん?」と言い、冬樹が人形の入ったガラスケースを持ちあげた。
「了解です」
と、それを受けとるような形で、皐月が紙袋を広げる。
徐々に紙袋の中へ沈んでいく人形を、秋恵は不安気な顔で見つめていた。
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