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 約二〇分後、友ヶ島の桟橋さんばしがある場所──うらに到着した。

 高速船から続々と人々が降りていく。春平は列の中で周囲を見渡していた。
 桟橋の向こうは開けていて、桟橋の手前で人々がたむろしていた。格好から釣り人だと分かる。他にも調理機材なんかを持ちこんでいる人たちがいた。

 『国立公園』というふだがあるから、こんな汚い場所が国立公園なのかと驚きつつ、広場の中央へと向かった。
 すぐ近くに記念碑のように備え付けられた大砲たいほうの弾が見えたから、その前まで近寄ってみる。

 砲弾のとなりに立っている石碑には『明治三二年』とあり、他の側面には『陸軍省』と書いてあった。そこからすぐ近くの段差の上には案内板らしきものが立っていて、遠方にはトーテムポールなどの、なぜ設置してあるのか分からない妙な物が置いてあった。

 ──なるほど。

 友ヶ島ともがしま要塞とは言うけれど、別におどろおどろしいところ、というわけでは無く、田舎いなかによくある『由緒ゆいしょ正しき何か』を前面に押しだした観光地、といったところなのだろう。
 つまり無人島とは言っても、四六時中、無人というわけでは無い。島で生活する人間がいない、というだけなのだ。

「尋ねた方が早いかなぁ……」

 ポケットから着信音が鳴った。

「はい?」
『ああ春平君、僕や。今どんな状態なん?』
「無人島とは思えやんくらいの充実っぷりですよ。自販機までありますし、電話もつながります」
『もう着いてるんか?』
「ついさっきです」

『こっちは一一時半の船に乗るわ。春平君が今着いたってことは、大体二〇分前後で着くってことやな』
「結構、人が多い島なんですね」
『夏場やさけな。それより今、パンフレット開けるか?』
「ええ」

 広げたパンフレットには地図が載っていた。

「あれ? これ逆やんか……」

 桟橋と地図の方角関係が逆になっていたから、春平は面倒くさそうな顔でパンフレットをひっくり返して、再び眺めはじめた。

『大丈夫か?』
「あ、はい。続けてください」
『春平君は今、野奈浦のなうらっちゅう場所におるんよな?』
「そうです。トーテンポールとかクジャクが歩いてたりとか、よう分からん変なのがいっぱいあります」
『地図には左と右、それぞれに行ける道があるんやけど、他にも道あるんかな?』

 春平が周囲を見渡しつつ、「いえ、無いと思います。ちょっと向こうの方に廃虚っぽい建物が見えるくらいですかね……」

『とりあえず、廃虚以外の場所を捜そら。幸い人も多いみたいやから、簡単に入ったりは出来んやろうし』
「そうですかね? 入れそうな場所みつければ、すきついて入りそうですけど、あいつ……」
『そうであったとしても、危ないさけ合流したときに捜そら。それよりも、春平君は右の道と左の道、どっち行くの?』
「え~っと……」

 パッと見た感じ、左の道は山登りが多そうだったから、

「右の海岸沿いを捜してみます」と答える。
『ほな、僕は左の道を行くわ。小展望台の方向は距離ありすぎるさけ、お互い一三番のトコ、目指して歩こか』
「一三番、一三番…… あっ、ここですね?」

『三角形の記号があるやろ? そこ、多分この島で一番たかい場所や。そこに航空アンテナあると思うから、そこの前で落ち合おら』
「分かりました。この、三角形の記号の場所ですね」
『ほな、右側は頼んどか』

 了解した春平が、通話を切って携帯端末をポケットへ突っ込んだ。
 そうして改めて地図を見下ろして、苦々しい表情を浮かべていた。

 三角の記号の場所が合流地点なら、左の道は急な坂道を歩くが、距離は短い。一方、右の道は海岸沿いだが、左の道の倍は距離がありそうだった。しかも、色々と建物か廃墟がありそうでもあった。

「まぁええか。観光と思って回ろ……」

 決意を固めたというよりも、むしろ諦めたというべき心境でつぶやいた春平は、観光案内センターと呼ばれる建物の脇から伸びている砂利じゃり道を歩いた。
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