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 せみがけたたましく鳴いている。うだるほど暑いわけでも無く、こうらくよりの過ごしやすい天気であった。

 合流した春平と夏美は、駅から続く淡島神社への道のりを辿たどりながら歩いている。冬樹は先に出発したらしい。

 二人の話題は当然、秋恵についてだった。

「それで」と、夏美が言った。「私がきしってところへ行って、部長さんと合流してから捜しに行ったの。
 そうしたら夢のお告げ通り、火事で燃えちゃった倉庫から、少し離れた場所にある草むらで人形を見つけたの」

「それが秋恵ちゃんやったと?」

 春平の問いに、彼女がうなずく。

「ただ、袋も何も用意してなかったし、目立つとアレだからってことで、ホームセンターで箱を買ったりコンビニ…… だっけ? そこから送ることにしてって感じかな」

「そっちの方が目立てへんか?」
「だって電話に出ないし、家に行っても居留守いるすするし…… だから部長さんが、確実で安全な方法として配達を選んだの。もし受け取らなくっても、こっちに戻ってくるんでしょ? 安全安心じゃない」

「せやけどさぁ…… よく、秋恵ちゃんも了承してくれたな?」
「そりゃまぁ…… 発案者の一人だし?」
「えっ? どういう意味?」
「部長さんってすごいよね」
 
 夏美が急に、話題を変えた。

「宛名の名前を見れば怒るか奇妙に思うかになって、私や自分に連絡してくるはずだって言って、その通りになってたんだもん。
 私なんか心配だから、ついついシュンちゃんのところまで確認しに行っちゃった。案の定、引きこもってたし」

 春平がため息をついている。ただ、事実だからなのか諦めなのか、起こったり反論したりはしなかった。

「秋恵さんの話だと、巫女みこ人形に入ってた女性が助けてくれたって言ってたよ? それで、目を覚ましたら私が目の前にいたってわけ」
「そうらしいな。数日もってたことに驚いたって言うてたわ。
 それに、おそらく屋上へ行く前にはもう、配達された人形に入れられてたんやろうな」

「そうなの?」
「あの巫女みこ人形が、屋上へ行く前に、大丈夫って言うてくれてたさけ」
「な~んだ。知ってたなら、家に引きこもる必要なかったのに」

 春平の足が止まる。
 夏美も止まる。

「炎の中に落ちていったんやぞ? 黒焦げで原型も無くて…… それに、入れ替わってるなんて知らんかったし…… 誰でも最悪のこと、考えるわ」
「──無事で良かったね」
「ホンマやで……」

 二人の足が再び動きだす。

「それにしても」と夏美。「あのとき、もし秋恵さんと私が入れ替われたら、シュンちゃんも泣かずに済んで良かったのにね」

「泣いてへん」
「まっ、そういうことにしておくとして……」
「なんでやねん」
「一つ、気掛かりなことがあるよね?」
「例の二人組のことか?」

「あっちは別にいい。もう捕まったって部長さんから聞いてるし、興味ないもん」
「ほな、なんよ?」
「あの巫女みこのお人形さんよ。
 あれに入ってた女性、誰だったのかしら? どうして助けてくれたのかな?」

「さぁ……」
「さぁって…… おかしくない? 秋恵さんみたいな感じで人形に入ってたわけでも無さそうだったし、あたしみたいな感じでもなかったし……」

「そんなん分かるんか?」
「人形だし、私」
「まぁ…… そうやったな」

 夏美が首をかしげる。

「こっちやで」

 春平が路地に入った。
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