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 三月三日の正午。春平と秋恵は淡島神社にいた。

 神社には予想していたよりも大勢の人々がいた。

 本殿で、ぐうのような格好をした子供──がおはらいをし、さいしゅ祝詞のりと奏 そうじょうをおこなった。そして、願い事の書かれた紙を人の形に折ったもの──かたしろを、巫女みこしらの舟に散らしていく。

 その後、ひな人形たちが三隻の舟に乗せられていった。
 舟は春平が想像していたよりも大きく、桃の花や菜の花で彩られていた。

 春平が豪勢だとつぶやき、秋恵を苦笑いさせる。
 その豪勢な舟が、見学や参拝に来た女性たちの手によって担がれ、いその桟橋へと運ばれていく。

 巫女みこ宮司ぐうじが舟の後ろに立ち、稚児ちごがまた清めをおこなったあと、祝詞のりとがまたそう じょうされる。

 それが終わると、舟が海へ出された。

 先導する小型船が海上を走ると、人形たちの舟もゆっくり波間を渡って流れゆく。合わせて、稚児ちご巫女みこたちが花吹雪を散らした。

 ふと、春平が周りを見渡す。

 写真などを熱心にっている人もいたけれど、大方の人は秋恵と同じように、静かに見送るだけだった。中には涙をぬぐう人もいた。

 春平が再び、波間を行く舟の後ろ姿を見やる。
 舟に乗っている人形たちはどこか、晴れ晴れとしているように見えた。

 それはきっと、結婚式で子供を見送る親みたいな心境で、舟に乗っているからだろうと、春平は思った。

 だから後ろ姿も、どこか誇らしであった。



            ────了


【あとがき】

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。

前回の異世界推理モノからガラリと変わって現実現代になってしまいましたが、暇つぶしになっていたなら幸いです。

さて、今度こそ前回の最後にも言った通り、友人のリクエストである令嬢モノを書こうと思います。悪役要素は無くなりそうですが……

あと、来年の夏までには、本来であれば今年の夏に投稿予定だった新作を出したいなぁ、と思っております。

予定は未定ですので、結局は無くなるかもしれませんが、しれっと投稿していたら、またお読み頂けると幸いです。
(内容は過去に投稿した短編を、夏らしい長編モノにした感じの予定です)

長々と未確定の予定を書きましたが、新作でお会いできることを祈りつつ、読了の皆様に、改めてお礼申し上げます。



ありがとうございました。
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みんなの感想(1件)

kuro-yo
2022.08.24 kuro-yo

5話の「明日は大安」ですが、大安の前日は多くの場合仏滅となりますので、「今日の受付は終了」というセリフにちょっと違和感を感じました。

暁 明音
2022.08.26 暁 明音

執筆時点で仏滅で駄目という形を取っていたのを、ちゃんと修正しきれていなかったようです。

翌日を先勝にしておきます。

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